第51話 思惑
郁美の姿を見て、素性を知った陽子は、生まれて初めて卒倒するのではないかと思うほど、心に強い衝撃を受けました。
話を聞き終えた陽子は、秀喜を密かに育てていた加代を責めるのではなく、その心境を理解しました。
自分も加代と同じように、女として生まれてきたからには、一度は子供を育ててみたい、という強い思いが生まれたからです。
ましてその子供は、幼い時からあまりかまってやることのできなかった、不幸のうちに悲しい死を遂げた弟の子の、双子の兄妹の間にできた、なんとも哀れで、生まれる前から悲劇性を身にまとった子供ではないか・・・
陽子は、私なら生まれてくる子供を幸せにしてあげられるかもしれない・・・ いや、私以外に、この子を幸せにすることなどできないと信じ、自分が育てようと決心しました。
陽子は無理な中絶手術をして、郁美の身に何かあれば、それこそ取り返しが付かないと言って、そのまま出産するように話しました。
そして、生まれてくる子供を自分に引き渡すように説得したあと、郁美が美智子と決別し、新しい人生を歩むことができるように計らうと約束しました。
郁美は思い悩んだ末に、美智子と決別し、命の危険を伴う中絶手術を諦め、陽子の提案を受け入れて、出産することにしました。
そして郁美は、兄である秀喜も救いたい、その一心で、秀喜の今後のことも考えてほしいと、陽子に訴えかけました。
郁美は今後、できれば秀喜と、本当の兄妹として暮らしていきたいと願い出たのです。
陽子は郁美の願いを了承し、二人が本当の兄妹として新しい人生を歩んでいけるように、その環境を全て自分が整えることを約束しました。
陽子は郁美が無事に出産できるよう、その環境作りとして、まずは郁美から麗子を引き離すことにしました。
麗子が引き続き覚せい剤を使用している事を、郁美から聞いていた陽子は、自身が持てる力と影響力を駆使して、美智子を社会的にも、物理的にも隔離させるために、彼女を逮捕させることにしたのです。
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