第47話 女優と子役

 女優、清瀬麗子のデビュー作となった映画は大ヒットし、美智子こと麗子は、見事に女優として新しい人生をスタートさせることができました。

 しかし、その道のりは平坦ではありませんでした。その理由は、撮影開始当初から麗子は、生来の自由奔放で破天荒な性格が現れ、入りの時間に遅れて、共演者の大物俳優を怒らせたり、演技指導で監督と対立したりといった、新人らしからぬふてぶてしさが周囲の度肝を抜き、所属事務所の社長である神崎の肝を冷やしました。

 しかし、映画が上映されるや否や、麗子は新人離れした高い演技力と、その美しさで、たちまち銀幕の大スターの仲間入りを果たしました。

 当時は日本映画の黄金時代で、麗子の元には次々と次回作の話が舞い込んできました。


 麗子はどんなに忙しくとも、月に最低でも一度は、親戚の伯母さんという立場で、岡山に居る秀喜に会いに行きました。

 そして、神崎の養女となった郁美には、養父である神崎の友人という立場で接触していました。

 神崎の実家で、彼の両親に育てられていた郁美に、麗子は3日と空けずに会いに行き、その接し方もハチャメチャでした。

 まだ2歳にも満たない郁美に化粧を施したり、宝石店で高価な指輪を買って与えたり、高級ブティックでわざわざ子供服を何着も作らせ、郁美をまるで着せ替え人形のように着飾ったりといった、常識はずれな接し方でした。しかし、決して虐待を加えていたというわけではなく、むしろ逆に、溺愛していたといっていいほど、麗子なりに愛情を持って接しておりました。


 郁美が5歳になった時、麗子は予てからの計画を実行するべく、神崎とともに行動を開始しました。

 郁美を、麗子の幼少時代を演じる子役として、彼女の6作目の主演映画に出演させることにしたのです。


 そして、二人が出演した映画が公開された直後、麗子は初めて郁美を連れて、秀喜と加代に会いに岡山へ行きました。

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