第12話 愛子
昨夜はビールから始まり、つまみの生ハムとチーズの美味さに、ついついワインにウィスキーと飲みすぎてしまい、二日酔いの気分の悪さで、朝の9時過ぎに目を覚ましました。
昨日はいきなり瑞歩が現れては慌しく去っていきましたので、ゆっくりと話すことができずに気付かなかったのですが、よく考えてみると、野間会長の娘であり、瑞歩の母親という人物はどういう女性なのでしょう?
確かに昨日の話し合いは短すぎましたので、話題がひとつも上らなかったことも納得できるのですが、それにしても瑞歩の母親とアキちゃんはどこで知り合い、どういう経緯があって、瑞歩が父親の存在自体を知らないという状況になってしまったのでしょう?・・・
そして、何よりもアキちゃんの性格からして、娘の存在を知っていてほったらかしにしていたということは考えられませんので、おそらく瑞歩の母親は、アキちゃんに内緒で彼女を産んで育てていた、シングルマザーであったのかもしれません。
ということは、アキちゃん自身もつい最近まで、瑞歩の存在を知らなかった可能性が高いですし、おそらくそうであった場合を仮定すると、野間会長は自身の死期を悟り、自身亡き後の瑞歩の面倒を託すために、父親であるアキちゃんを呼び寄せた、というのが一番無理のない筋書きではないかと思いますが・・・
しかし、それではなぜ野間会長は、瑞歩や私にアキちゃんが父親であるということを、長谷川に口止めしたのかが理解できませんし、何よりもなぜアキちゃんは、娘の存在を知ったあとに失踪してしまったのかが理解できなくなってしまいます・・・
現時点で私が色々と想像してみたところで、真実に一歩でも近付けるような気がしませんし、深く考えるほど余計に頭が混乱するばかりなので、夕方に訪ねてくる瑞歩と話をするまで、何も考えないようにしようと思ったとき、
「!・・・」
なぜだか急に、愛子のことを思い出しました。
もしかすると、今回のアキちゃんの失踪に、愛子が何らかの形で関係しているのではないでしょうか・・・
しかし、愛子とアキちゃんの兄妹は、私との離婚の理由が原因で疎遠となってしまったので、おそらく失踪とは何も関係が無いだろうと思い直しました。
私はこの5年間、愛子との離婚の原因を数え切れないほど考え続けてきましたが、結局は何も分からないまま現在に至っています。
愛子は5年前にとつぜん、一方的に離婚を切り出し、最終的に私は渋々了承して離婚が成立したのですが、私は離婚してからの1年間は、あまりのショックで仕事も何もかも手に付かず、まるで廃人のように自宅に引きこもっていました。
愛子は離婚して家を出て行った後も、なぜか住民票を移動させなかったので、私は愛子の郵便物が届く度に、『もしかしたら、愛子が戻ってくるのではないか?』という思いから、引越しすることもできずに、ひたすら愛子の帰りを待ち続けました。
しかし、それから更に1年が経過しても、愛子は住民票を移動させることも、私の元へ戻ることも無かったので、待ちくたびれた私は引越しを契機に、愛子のことをきれいさっぱり忘れることにしたのですが・・・
アキちゃんは私と愛子が離婚した時の経緯や、その後の愛子の面影を引きずったままの、哀れな私の姿を間近で見てきましたので、心のどこかで妹のことを赦せない、という思いがあったと思います。
そしてアキちゃんは、行方不明となってしまった愛子の心配よりも、見捨てられた私に対して申し訳ない、という思いの方が強かったのではないかと、私は彼との付き合いの中でそう感じていました。
しかし、いかなる事情があるにせよ、結果的にアキちゃんと愛子の兄妹は、明確な理由を告げずに私の前からとつぜん姿を消した、ということに変わりはありませんが・・・
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