第4話 有馬へ
翌朝、目覚ましをセットした1時間以上も早い、午前6時に目を覚ました私は、せっかく早起きしたのだから喫茶店に行って朝食を摂ろうと思い、素早く身支度を開始しました。近所に馴染みの喫茶店などありませんので、どうせ行くなら有馬の喫茶店に行くことにして、昨日電話で長谷川に話した、白いポロシャツにジーンズという姿で、7時前に家を出ました。
通勤・通学時間とガッチリ重なったため、阪急伊丹駅から乗った電車は勤勉な学生や、勤労な市民たちですし詰めとなっており、満員電車特有の様々な臭いが交じり合った人いきれに、私は早起きしたことを少しだけ後悔しました。
電車は阪神大震災の後に、見事に復活した芦屋や神戸の街中を進み、三宮駅を過ぎてから地下に潜り、ここから先は神戸の歓楽街の真下を通る長いトンネル区間を通過しながら、終着の新開地駅に到着しました。阪急電車を降りた後、ここから有馬へ向かうために、乗り換えの神戸電鉄新開地駅のホームに向かいました。
神戸電鉄線は始発の新開地駅から短いトンネルが断続的に続き、神戸市北区に入ってから地上に出て、そこから電車は、山間の谷に沿って走る有馬街道と並行して、北北東に向かって進みます。
今の時期ですと、標高が高い有馬は、平地と比べて2週間は季節が遅れてやってきますので、六甲山系の残り少ない春の名残を発見できるかと思っておりましたが、六甲の山々は私の想像以上に季節が進んでいて、電車のドアが開く度にキセル(無賃乗車)してくる、谷を渡る生暖かい風に夏の息吹を感じながら、長谷川との待ち合わせよりも1時間以上も早い、午前9時前に終点の有馬温泉駅に到着しました。
ゴールデンウィークが終わった今は観光シーズンではありませんので、駅に降り立った乗客は私を含めて7人ほどで、その内に観光客と思えるのは、50代の夫婦と思しき二人連れのみで、改札を出た駅前の通りは閑散としておりました。
喫茶店を探そうと思い、周辺で一番にぎやかな駅の南側に行きますと、お土産屋が軒を連ねた小さな商店街となっており、ちょうど名物の炭酸せんべい売り場の隣に喫茶店がありましたので、扉を開けて中に入りました。
朝と昼の間の中途半端な時間なので、店内には客が一人も居らず、カウンターテーブルの上の目に付いたスポーツ新聞を手にとって、入り口のすぐ傍のテーブル席に座り、メニューを見ながらモーニングセットを注文しようと思いました。
しかし、さすがは成金の天下人が愛した観光地なだけに、値段が定食並みの700円もしましたので、どうしようかと迷っていると、女性店員が注文を取りに来ましたので、無職の私は思わず、
「アイスコーヒー」と、店で一番安いものを注文したとき、入り口の扉が開いて、口に白いマスクをしたスーツ姿の小柄な男が店に入ってきました。
男は私の横を通り過ぎて、店の一番奥のテーブルに行き、私の方を向いて椅子に腰掛けました。
男の白いマスクが少し気になりましたので、三つのテーブルを挟んで向かい合った男を、新聞を読む振りをしながら横目で観察することにしました。
私が幼いころ、日本中のいたいけな子供たちを恐怖のどん底に突き落とした、『口裂け女』という、口にマスクをした女の妖怪が巷で大流行しましたので、どうしてもマスクに対して興味を抱いてしまうのです。
年齢は45歳前後、身長は160センチそこそこの痩せ型で、花粉症気味なのかマスクをかけておりますので目鼻立ちは分かりにくいのですが、この男を一言で表現するならば、市役所の地域振興課の課長代理、といった肩書きがぴったりな、生真面目そうな性格が7:3分けの髪型と、小柄な体中から滲み出ている、といった雰囲気を持っておりました。
男は注文を取りにきた女性店員に、私と同じくアイスコーヒーとマスク越しにくぐもった声で言ったあと、口にしていたマスクを外してテーブルの上に置きましたので、私は男の素顔をよく見ようと、新聞を折りたたんで横目でチラッと見た瞬間でした。
「!・・・」
男の顔には、大きく横に張り出した立派なエラが備わっておりましたので、思わずそのエラに心を奪われ、一目で見惚れてしまいました。
もしかすると、男は花粉症を装ってマスクをしているのであって、実は自慢のエラが人を魅了してしまうことが不満で、一年を通してマスクをし続け、立派なエラを出し惜しみしているのではないかと思えるほど、男のエラは偉そうでありました。
私は思い切って、『もしかして、あなたはエラ呼吸ですか?』と、心の中からひそやかにメールを送信してみたところ、
「!」
なぜか男は、私に向かってニッコリと微笑んだあと、笑顔のままいきなり席から立ち上がって、ゆっくりとした足取りで私に近づいてきました。もしかしたら、何らかのエラーが発生して、エラメールが本当に届いてしまったのではないかと焦り、慌てて視線を男のエラから外したのですが、時すでに遅く、男は私のすぐそばまで来て、
「もしかして、西村さんですか?」と言いました。
「!・・・」
いきなり名前を呼ばれて驚いたあと、(ということは長谷川か?)と思いながら立ち上がり、
「はい、西村です」と言いました。
「初めまして、長谷川です」と言って、長谷川はスーツの内ポケットから黒皮の名刺入れを取り出し、中から名刺を一枚抜き取って、「いやぁ、偶然ですね」と言って、にっこりと微笑みながら名刺を差し出しました。
私は自分が差し出す名刺がありませんので、
「そうですね」と言って長谷川の名刺を受け取り、手にした名刺を眺めながら、自分よりも極端にエラが発達、もしくは退化した人と話すことに慣れておりませんので、私の方が15センチ以上も背は高いのですが、どうも長谷川から見下されているといった気がして、(ちょっと苦手やなぁ)と思いました。
「もしよろしければ、こちらに席を移ってもいいですか?」と言われましたので、
「どうぞ、どうぞ」と言うと、長谷川は失礼しますと言って、私たちは同時に椅子に座りました。
私は何から話そうかと思いましたが、なぜ待ち合わせと違った時間と場所で、しかも目が合った瞬間に私のことが分かったのだろうと疑問に思いましたので、店内の時計で時刻を確認したあと、
「待ち合わせの1時間も前ですし、場所も違うのに、なんで私のことがすぐに分かったんですか?」と訊ねました。
「いやぁ、ここで会ったのは本当に偶然で、実は私も早く着き過ぎまして、駅前に車を停めて待っていようと思ったのですが、道が狭くて停める場所が無かったので、駅前の駐車場に車を入れて、時間潰しでここに来たのですよ。そしたら電話で聞いていた服装の人がいましたので、もしかしたら西村さんじゃないかなぁ?と思ったことと、あとは西村さんの雰囲気ですね」と長谷川は言いました。
私は(何じゃそれ?)と思いながら、
「私の雰囲気って、どういう意味ですか?」と訊ねると、長谷川はまるで、新型の冷蔵庫を品定めするかのように、私の顔を真剣な眼差しでじっくりと見たあと、
「そうですねぇ・・・・ 私は福山さんから、西村さんのことを弟みたいな存在だと聞いておりましたので、私の頭の中で男前のイメージが出来上がっていたのですよ。だから、西村さんだとすぐに分かりました」と、訳の分からないことを言いました。
「あのう、福山は誰が見ても男前って分かるんですけど、私は福山とまったく似てませんし、今まで初対面で男前って言われたことなんか、一回もないですよ」と、私が正直に話すと、
「いえいえ、西村さんはとても良い感じの雰囲気をお持ちですし、男前の文学青年という感じがしますよ!」と、今度は妙なことを口にしました。
私は今まで愛読してきた小説が、文学のジャンルに含まれるのかと一瞬だけ真面目に考えたあと、戦国ものや官能小説は、おそらく文学には含まれないだろうと思いました。
「文学青年って言われたのは、生まれて初めてですね」
「いやぁ、本当に西村さんは知的な感じがしますし、物書きの作家という印象を受けますね」
「えっ! 作家ですか?」
「はい。それも、若くて男前の新進作家という感じを受けますよ」
「・・・・」
何度も男前と言われて、(もしかしたら、こいつホモか?)と思ったあと、聞き慣れないほめ言葉に少し気色が悪くなりましたので、とにかく話題を違う方向に持っていこうと思い、
「あのぅ長谷川さん、昨日電話で話したことなんですけど、正直に言って私は疑問だらけなんで、私も長谷川さんの質問に答えますから、色々と質問してもいいですか?」と、本題を切り出しました。
「いいですよ。私も西村さんに色々と訊ねたいことがありますので、私から先に答えた方がいいのか、それとも先に質問した方がいいのか、どちらがいいですか?」
「じゃあ、長谷川さんの質問から先にして下さい。それとですね、私は普段から福山のことをアキちゃんって呼んでますから、今からはそう呼びますけど、いいですか?」と私が言うと、
「はい、分かりました」と長谷川は言いました。
その時、私たちが注文したアイスコーヒーを女性店員が運んできて、伝票を一緒にされますか?と訊ねてきましたので、私は別にして下さいと言おうと思ったとき、
「いいですよ。一緒にしておいて下さい」と、長谷川はおごる気満々な言い方をしましたので、(モーニング注文しとったらよかった)と後悔しました。しかし、おごってもらう立場で贅沢は言えませんので、黙って彼のお言葉に甘えてご馳走になることにしました。
私たちはお互いに、目の前のアイスコーヒーにミルクとシロップを入れて一口飲んだあと、「・・・・・」しばらく間を置いて、長谷川が質問を開始しました。
「では初めに、福山さんは今までに、このような形で突然居なくなったことがありましたか?」
「私はアキちゃんと20年近くの付き合いになりますけど、今までこんなことは一回も無かったですね」
「そうですか。私は福山さんが所属している、東京のマネージメントオフィスに電話したのですが、カメラマン仲間の誰一人として行方を知らないということなので、福山さんは誰にも行き先を告げずに居なくなってしまったのでしょうか?」
「おそらくそうだと思います。私もアキちゃんに用事があって、携帯電話がつながらなかったんで、そのオフィスに電話したんですけど、アキちゃんと仲がいいカメラマンの人が、奴はもともと神出鬼没だから、その内にひょっこり現れるだろうって言ってました」
「では、福山さんは最近、何かトラブルを抱えていたということは無かったですか?」
私のイメージでは、アキちゃんは年がら年中、女性がらみのトラブルを抱えているような気がしましたが、話がややこしくなりそうだったので、
「アキちゃんは人と揉め事を起こすようなタイプではありませんし、どっちかって言うたら面倒見がいいので、人から揉め事を相談されることはあっても、自分が原因のトラブルは無かったと思います」と言いました。
「そうですか・・・ じゃあ、原因が全く分からないですね・・・ それで、西村さんに宛てた手紙には、具体的にどんなことが書かれていたのですか?」
手紙の内容を思い返しながら、アキちゃんが私の将来を悲観して、あなたに全てを託す、と書いていたことを正直に話そうかと思いましたが、まるで自分の恥を自ら曝け出すような気がしましたので、「手紙には、別荘の管理人のことしか書いてなくて、詳しいことは長谷川さんと話してくださいとしか書いてなかったですね」と、事実をかいつまんで話しました。
「そうですか・・・」と長谷川は言ったあと、しばらく間を置いて、「では、西村さんが分かる範囲で構わないのですが、福山さんは現在と過去を含めて、どなたか特定の女性とお付き合いしていたとか、特別な関係の女性がいらっしゃったとかはご存じないですか?」と言いました。
(特定の女性か、特別な関係の女性?)
私はアキちゃんの交友関係を含めた、私生活を殆んど何も知らなかったので、
「私が知る限りでは、今までそんな話を聞いたことがありませんから、特別な関係の女性はいなかったと思います」と答えました。
「そうですか・・・・では、付かぬことを伺いますが、福山さんにお子さんがいらっしゃるとか、そのような話を聞いたことはありますか?」と、長谷川は本当に付かぬことを伺ってきましたので、私は少し驚きながら、
「お子さんって、アキちゃんに子供がいるのかってことですか?」と訊ね返しました。
「はい、そのような話を聞いたことがありますか?」
「それはないと思います」と私は即座に言ったあと、「面倒見のいいアキちゃんの性格からして、子供とか家族をほったらかしにするっていうことは考えられませんね」と答えました。
「そうですか・・・」と言ったあと、長谷川は私から何も情報を得ることができなかったといった感じで、少し残念そうな顔をして、「私の質問は以上なのですが・・・」と言いました。
長谷川の質問があまりにもあっさりしていたので、少しだけ不審に思ったあと、質問の意図がいまいちよく分からなかったので、
「あのう、アキちゃんに彼女がいるとか、子供がいるとかっていうことが、行方不明になった事と、何か関係があるんですか?」と訊ねました。
「いえ、ただ何かの参考になればと思って訊ねただけです。では、さっそく西村さんの質問を始めてください」と、長谷川が自分の話を早く切り上げて、私に質問を急かしているように感じましたので、もしかすると長谷川は、何か隠しているのではないかと思いました。
私は質問を始める前に、何から質問すれば、会話の主導権を握り、長谷川から上手く情報を引き出すことができるかと考えて、まずは肝心の別荘のことから訊ねることにしました。
「あのう長谷川さん、私が訊ねたい事はですね、そもそも別荘は誰の持ち物で、アキちゃんとどういうつながりがあって、借りることになったんですか?」と言いました。
長谷川は私の質問に答える前に、アイスコーヒーを一口飲んだあと、ゆっくりとした口調で事の経緯を話し始めました。
「私は別荘を所有している、㈱ノマシステムという会社の顧問弁護士であり、野間製作所という会社の顧問弁護士もしておりまして、どちらの会社も野間会長という方がオーナーでした。それで私は、野間会長の個人秘書も兼任しておりましたが、会長は2ヶ月前に肝臓癌で亡くなられました。それで、会長は亡くなられる前に、私に福山さんのサポートをしなさいという指示を出されまして、私が福山さんと初めてお話したときに、福山さんから別荘の管理人の話を頂いた、ということなのです」
話の内容よりも、(野間製作所?)の方が気になりましたので、
「あのぅ、もしかして野間製作所って、テレビでロボットが出てきて、変な踊りしてるコマーシャルの会社ですか?」と訊ねました。
「はい。今現在、そのCMを放送しております」
私は(やっぱり!)と思いました。
野間製作所といえば、工業機械全般を扱った総合メーカーで、中でも特殊な工作機械(ワークマシーンやマザーマシーン)の製造にかけては、他の追随を許さない独自の高い技術力を誇り、近年ではロボット技術でも画期的なシステムの開発に成功し、世界中で高い評価を得るといった、様々な分野で世界を股にかけて活躍する、日本を代表する企業ですので、
「なんで、野間製作所みたいな大きい会社の会長が、アキちゃんのサポートをしなさいって、顧問弁護士さんに言うたんですか?」と、至極当然の疑問をぶつけました。
長谷川は、私にどう答えるべきかと迷っているのか、「・・・・」
しばらく間を置いたあと、
「実は、私も詳しい事情は何も分からないのですが」と言って、続きを話し始めました。
長谷川の説明によりますと、全ての発端は2ヶ月前に亡くなった、野間製作所の野間会長の鶴の一声から始まったそうです。
今からちょうど半年前、大阪の千里にある国立病院に緊急入院した野間会長が長谷川を呼びつけ、福山章浩なる人物と話ができるようにセッティングせよと命令されたそうです。
長谷川は早速、情報網を駆使して捜索したところ、有名カメラマンのアキちゃんはその日のうちに発見され、会長自らが連絡を取って、二人は2日後に、会長の入院先の病室で会うことになったそうです。アキちゃんが病院に到着後、同席を許されなかった長谷川は、会長とアキちゃんが3時間もの間、どのような話をしていたのか分からなかったのですが、その後のアキちゃんは二日に一度の割合でお見舞いに訪れるようになり、彼のお見舞いは会長が亡くなる3日前まで続いたそうです。しかし、この間に長谷川は同席を許されなかったので、二人が何を話していたのか全く分からないまま、長谷川は会長からの指示で、アキちゃんを有馬の別荘に案内し、別荘を気に入ったアキちゃんが借りることになり、アキちゃんは会長が亡くなる3日前のお見舞いを最後に忽然と姿を消したので、長谷川は別荘のこと以外は、ほとんど何も知らないと言いました。
長谷川が会長から受けた、最初で最後の唯一の指示は、有馬の別荘の賃貸契約を交わした時に、初めて同席を許されて、アキちゃんの目の前で会長が長谷川に言った、
『これから先、あなたは福山さんの指示に従いなさい』という言葉であったそうです。
ということで長谷川は、私を有馬の別荘の管理人にして、給料が出るようにしなさいとアキちゃんから指示されたので、
「西村さんが管理人を断った場合、私は困ったことになってしまうのですよ」と言いました。
「?・・・」
長谷川の話を聞く前と、聞き終わった後の違いを見つけることができないほど、ほとんど何も理解できなかったのですが、アキちゃんが長谷川に何と言ったのかを、もっと詳しく訊ねようと思い、
「じゃあ具体的に、アキちゃんは長谷川さんに、どのような指示を出したんですか?」と訊ねました。
「それは、西村さんを今から案内する別荘の管理人にするように、ということだけです」
「じゃあ、それ以外に、何も言わなかったんですか?」
「はい、本当にそれ以外は何もないのですが・・・」と言ったあと、長谷川は少し眉間にしわを寄せて、「でも、ひとつだけ気になることがあるのですよ」と言いました。
「えっ? それはなんですか?」
「それはですね・・・」と言って、長谷川は慎重に言葉を選んで、続きを話し始めました。
長谷川の話によりますと、有馬の別荘は会長が10年前に自らが代表を務める、㈱ノマシステムという法人の名義で購入し、5年前に建て替えた当初は、自宅のある芦屋から車で45分と程近く、お風呂は本物の温泉を地中深くからポンプで引いて、本格的な温泉旅行気分を楽しめるということで、会長は週末や疲れが溜まったときなどに、家族や知人を連れてよく出かけていたそうです。
しかし、どういう訳か、自らの体調の異変に気付いた2年前から別荘に引きこもるようになり、その後は家族や知人を含めた全ての人たちを出入り禁止にして、誰も寄せ付けなくなってしまったそうです。野間会長の別荘での引きこもり生活は、容態が急変して病院に入院した半年前まで続き、家族や長谷川を含めた関係者らは、会長が誰も寄せ付けずに別荘に引きこもって、何をしていたのか分からないまま、会長は他界されたそうです。
「私が思うに、野間会長が別荘に引きこもって何をされていたのか分かりませんが、そのことに福山さんが何らかの形で関係しているのではないかと思うのですよ」
「それは、なんでそう思うんですか?」
「それはですね、会長は別荘から病院に緊急入院されたその日に、福山さんと会って話がしたいとおっしゃりましたので、どう考えても別荘で福山さんのことを考えていたとしか思われませんし、あれほど誰も寄せ付けなかった別荘を、西村さんが管理をされて、その給料を支払うということを含めて、福山さんが出された条件を全て受け入れて貸し出したのですから、私は会長が別荘で何をされていたのか分かりませんが、その作業を福山さんが引き継がれたのではないかと思うのですよ」
ということは、そもそも野間会長は、私が管理人になるかもしれないということを知っていたということになりますので、
「もしかして、野間会長はアキちゃんが私を管理人にするって言うたことを知ってたんですか?」と訊ねました。
「はい、おそらく福山さんも会長に話していたでしょうし、私からも福山さんのご紹介で西村さんが管理人を引き受けることになったと報告しましたので、会長はご存知でしたよ」
「それで、会長は私が管理人になることに対して、反対とかしなかったんですか?」
「はい、まったく反対されませんでした」
ということは、長谷川の推理が当たっているとすると、会長が別荘に引きこもってしていた何らかの作業をアキちゃんが引き継ぎ、そのアキちゃんは私を別荘の管理人にしようとしている、ということになります・・・ だとすると、会長はアキちゃんを介して、私にその別荘で行っていた何らかの作業を引き継がせようとしているのではないかと思いましたが、「・・・・・」しばらく考えたあと、そんな馬鹿な話があるわけないと思いました。
アキちゃんならともかく、私と野間会長の間には何の接点もありませんので、おそらく野間会長は、別荘の管理人はアキちゃんが決めた人なら誰でもいいということだったのでしょう。
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