いつかのあの場所で
橘結城
第1話 出会い
~2011年5月8日~
目覚ましが鳴る。俺は何も食べずに誰もいない家を出た。
いつもの道を歩いていく、もう昼前だ、今から行っても昼休みに着くだろう。駅に着き電車に乗る。思っていたよりも早く学校に着いてしまったので屋上に行って時間を潰していると、昼休みのチャイムが鳴った。
(おもしろくない…)
昼からの授業も適当に聞き流し、俺はバイトに向かった。ファミレスのバイトはもうすぐで1年になる。22時までいつも通りに仕事をこなし家に帰った。
(おもしろくない…)
深夜1時父親が帰ってきた。俺、
「蒼、今日はちゃんと学校に行ったのか?」
「昼から行ったよ」
「お前が何をしてもいいが学校だけはちゃんと行くんだぞ」
「分かってるよ」
(めんどくさい…)
~2011年5月9日~
目覚ましが鳴る。今日はいつもよりいっそう体がだるい。
学校に着いたときすでに昼の授業が始まっていたが授業に出る気分にはならなかったので俺は屋上に向かった。
階段を上り屋上の扉を開けると、同い年くらいの女の子が一人で泣いていた。
俺には意味が分からなかった、うちの高校の制服でもなく見たこともない女の子がそこにいてしかも泣いていたのだから。彼女は俺に気付くと涙をできるだけ見せないようにして走り去って行った。一瞬の出来事だったので俺は呆気にとられたまま立ち尽くしていた。
どうして彼女はこんなところで一人だったのか、どうして泣いたのか、あの後どうなったのか。普通なら気にしなくてもよいことなのかもしれないが、なぜか彼女のことが一日中頭の中をいっぱいにしていた。
~2011年5月10日~
朝、目覚ましが鳴る前に起きた俺はすぐさま屋上に向かった。今日も彼女が来るかもしれないと思ったからだ。昼休みのチャイムが鳴った。すると彼女が現れた。彼女が俺に気付いてまた昨日のように逃げようと背を向けたとき
「あ、あの…!」
彼女の動きが止まる。そして振り返って俺を見た。
「あ、俺、北島蒼っていいます」
(俺としたことがパニックになっていきなり自己紹介をしてしまった…)そう思っていると
「き、昨日のことはどうか誰にも言わないでください!」
「え、あ、はい。言いませんよ。でもどうして…」
「いえ、なんでもありません…」
彼女は笑いながら俺に言った。俺はそれ以上のことを聞きはしなかった。
しばらくの沈黙が流れた後、彼女はお辞儀をして去って行った。
その日のバイト中も家に帰ってからもずっと彼女のことを考えていた。名前くらい聞いておけばよかったと思った。
(どうしたらまた会えるだろうか…)
それから数日間俺は朝早くに目が覚め、毎日屋上に行った。
(どこにいるんだろう…)
俺の頭の中は彼女のことでいっぱいだった
そろそろ諦めようかと思っていた時の朝だった、今日も来ないと分かっていたのに俺は満員電車に乗ってまで屋上に向かっていた。俺が電車に乗り、次の駅に着いた時彼女は現れた。満員電車の中彼女だけしか見えなくなっていた。彼女が下りた駅はいつもなら通り過ぎるだけの駅だったが、俺は構わず下りた。
「あの!」
気付いたら俺は彼女に声をかけていた。
振り返った彼女の顔は驚きと悲しみが入り混じったような表情だった。
「北島蒼さん…?」
「そうです!北島蒼です!」
俺は名前を覚えてくれていた!そう思うととても嬉しかった。
「あの、お名前は…」
「あ、私は
「市来一葉さんですか。ありがとうございます。もしよかったらこれからお茶でもしませんか?」
俺は言ってから後悔した。こんな朝から高校生がナンパのような事をして成功するはずがない。そう思ったからだ。案の定彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべて何か言いたそうだった。
「すいません、嘘です。気にしないでください。」
そう言って立ち去ろうとした時だった。
「いいですよ。」
俺は何かの聞き間違いかと思ったが、それは確かに彼女の口から聞こえた。
そして俺と彼女は喫茶店に向かった。
いつかのあの場所で 橘結城 @hinayume080
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。いつかのあの場所での最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます