そのニ
尊之助と共に生活するようになってから、三ヶ月が過ぎようとしていた。
ある休日の朝、いつものようにトーストを作り、目玉焼きとシャウエッセンの朝食を食べていると、おもむろに尊之助が言った。
「そろそろいい頃合いかのぅと思ってな」
-聞けば、尊之助はこれまでトースターを大事に使ってきてくれた僕に恩返しがしたいのだと言う。そんな大げさな、と僕は笑った。だって、生活必需品のひとつとして普通に使ってきただけだぜ?まあ確かに、ポップアップ式のトースターはピザトーストも作れないし、餅も焼けない。ひたすらトースターしか作れない、そんなシンプルかつ頑固なところが逆に潔くて良いのだ。だから別に、これからも毎朝トーストを作ってくれればそれで充分なんだが…と言って聞かせるが、それでは尊之助は不満らしい。
「お主、欲がなさすぎ問題であるぞ。そんなだから、30過ぎても彼女の1人も出来んのだ!」
「それとこれとは全く関係ないだろ!?」
と、危うく血で血を洗う争いが起こるところだったが、尊之助は毎日のように「何かさせろ」オーラを出してくる。そんな日が数日、続いた。
「のぅ、主は何か気にかかっていることとかないのか?自分では確かめるのが難儀なこと、解決したいけど出来ないままになっていること…せっかくだからほれ、我の神らしいところを見たいと思わぬか?」
促されて、「うーん」と少し考える。神にしか出来ないようなこと…。
「…じゃあさ、ええと…」
僕は尊之助を手のひらにのせて、或る願い事を伝えた。すると尊之助は「そんな簡単なことでいいのか?お安い御用じゃ。では、明日にでも行ってくるぞい」と、あっさり承諾した。
…良かったのかな、これで。
窓の外の月が、満月になろうとしていた。
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