付喪神の報告書

@suzusora

その一

 付喪神。ものを大切に使っていると、いつの間にやらそこには神様が宿るという言い伝え?民話?何だったか忘れたが、そういうものがいるらしい。

かくいう僕の住む奈良という土地は、まさに数百年の歴史がある町であるから、その手の話もアレコレ溢れているのである。けどまあ信じなかったよね、実物を見るまでは。妖怪とか妖精とか、そういうファンタジーの世界の中のお話だと思ってた。


 ある朝、その神様は突然現れた。僕がいつものように眠たい目をこすりながら起き出し、そのまま台所へ向かってフライパンにサラダ油を熱してその上に卵を割り、ついでにシャウエッセンをこんがり焼いている間、同時進行で食パンを焼こうとトースターにパンをセットしようとした時だった。

「オッス!オラ、トースター界の風雲児、焼いたパンの数何万枚…」

「うわっ!?」

突然トースターの穴から顔を出して言うもんだから、したたかに尻もちをついた。

ちなみに我が家のトースターは、結構な年数使われているポップアップ式のものだ。

「ふ、風雲児…?」

「風雲児は名前ではない!我はこのトースト製造機の神である。いつもご利用ご苦労である」

その、トースターの神と名乗る彼は手のひらサイズの身体で、着物を着ていた。トースターの神であるなら割と近年の神なはずで、それなら洋服でも良さそうなのに?と聞くと「何でも形から」という答えが返ってきた。

「トースト製造機もこの世に生まれて40年、余旗あまはた家の朝のパンを焼き続けてきた。今は一人暮らしの主の家で、そのおつとめを果たしている。主も大事に使ってくれているお陰でこのとおり、まだまだ現役で使えている。その功績を讃え、我の存在を知らしめるに至ったというわけなんだぜぇ」

ノリが軽いために、本当に神?と疑ってしまうものの、ロボットではなさそうだし、神と認めざるを得ないようだ。


 さて、そんなわけでトースターの神、十星尊之助とうせいみことのすけが姿を現してからというもの、何となく家が賑やかになった。ひっそりと一人暮らしをしていたのが、一緒に食事をする相手ができるというものは存外心が明るくなるものだ。それほど淋しい思いをしていた自覚はなかったのだが、家に帰るのが楽しくなっている自分がいる。また、都合のいいことに他の人には尊之助の姿が見えないので、買い物などもたまについてくる。神様のくせにそこそこ食べるので食費がばかにならないが、まあこれも何かの縁、楽しく付き合っていこうじゃないか。



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