第26話 This Feeling この想い

26.


== 南 千鶴 + 松本聖 ==



 本気で誘惑してくれれば良かったのにと、その後何度

思ったことことだろう!男なんてもう懲り懲りと元夫との結婚

生活破綻後、ずっとそう思ってきたのに。渡邉にだけは

そんな気持ちにならなかった・・というより、その反対

の好意のような感情が増してきて、自分でも制御不能だっ

た。


 渡邉凛太郎から提案を持ちかけられる前から少なから

ず自分は好意を持っていたのだと今回の一連のことで気付

かされた。だからといって、人のモノを盗る趣味は無い

のでその小さく心の隅に根付いた気持ちを大きく育てる

ことなく、そっとしまっておいた・・のに。


 ここにきて、渡邉の妻までが自分と関わってきて、そっ

としまっておいた感情がムラムラと大きく育ちたいと主

張を始めていた。



「そんなに渡邉クンが好きなんだ!アハハッ!ねぇ、どこ

がそんなにいいの?」


「えっ、ぜ・・全部デス ☆」



「ブッ!!吹いてごめんなさい。あなた、渡邉クンを大切

にしてますか?他所に恋人がいるとか、いないとか。渡

邉クン、苦しそうで・・相談受けてて気の毒になって不

本意ながら奥さんの代わりに渡邉クンを元気付けてあげ

たいなぁ~、ひとりにしておけないなぁ~って思って仲

良くさせてもらってます。渡邉クンには私が必要ないっ

てことでしたら、身を引きます。けれど、どうなんだろう

。それはあなたに頼まれて聞くことではないと思うんで

すけど。私にそんな事を頼む前に先に話し合いしないと

いけない人がいるのではないですか?そもそも、あなた

が余所見していなければ、渡邉クンも私に相談することも

なかったんでしょうし」


 あっさりと判りましたとは返事しないわたしの態度に

奥さんが顔色を変え、打ちひしがれていく様子が手にと

るように分かった。



「あの、ごめんなさい・・そうですよね。夫の気持ちを

スッ飛ばして南さんにこんな事申し上げて、大変失礼な

ことをしてしまいました。申し訳ありません」


 そう言って、大人しく引き下がり奥さんは帰って行っ

た。







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