第22話 This Feeling この想い

22.


== 松本聖 ==



 自分と元彼のことを知った凛太郎は、大そう怒っていた。


あの時、夫は自分もこれからは私以外の女性と付き合うかもし

れないと宣言した。思い起こすと夫は独身の頃、何人も

のファンがいたほどなのだ。付き合ってくれる女性は夫

がその気になればすぐに作れるだろう。自分はそんな夫に

求愛してもらって結婚し、その上真面目に余所見もせず

大切にされてきた。


その事実に今更ながら思い至り、自分の仕出かした行為

の愚かさに打ちのめされた。



「三沢さん達と店で会ったそうね。その綺麗な相手の女

性は誰なの?」と聞いてみたいけれど、自分にはそれさえ

も資格が無いように思えて、聞くことは出来なかった。三沢

と会って夫ときれいな女性の話を聞いた日からの数日間を

聖は悶々として過ごした。


 凛太郎といえば、以前と同じで浮き浮きと浮かれた様

子も無く、家では普通だった。元彼とのことも、その後ウ

ジウジと責められることも無く、いつもの穏やかな夫であ

る。


 兎に角、美貌の彼女が気になってしようがない。調べ

られそうなことだけでも調べないことには気持ちが落ち着

かない聖は、凛太郎の勤める会社の女性を当たってみよう

と決心した。親しくしてるって、やはり社内の人間が一番

可能性が高いと思ったから。


 そう決心がつくと矢も盾もたまらず、気が付くと電車

に飛び乗っていた。そして元の職場のあるビルの前に佇

んでいた。さて、これからどうしようか!!


顔は判っている。先達て三沢さんが夫とのツーショッ

ト、食事しているふたりを撮った画像を見せてくれてい

たから。人の不幸は蜜の味っていうけれど、今までの印

象ではそんな風な人には見えなかったのに、三沢さんの

そういう面を知ることにもなった。けれど、こんなおせっ

かいも私にとってはある意味有難いことだ。顔さえ知らな

い相手となればそれこそ、家の中でウジウジと悩むしか

なかっただろうから。



-743-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る