第9話 This Feeling この想い

9.


== 渡邉凛太郎 + 松本聖 ==


 恋人いるって言ってたのにぃ、私達より後から入って

来といて、あっさり渡邉さんをかっさらっていくなんて

いい度胸してるンだね、ってなんてことも言われたとか

で、しばらく聖は凹んでたな。やっぱり恋人と別れて

たこと言っておかないといけなかったみたい、って!


 いやいや、聖そこは黙ってて正解だったンだってば。


じゃなきゃ今頃俺達、結婚まで辿り着けてなかったかも

しれないんだぞって、聖に言いたいところだった。


 初めて付き合った元彼に大学卒業を機に、完全フェー

ドアウトされて失恋し凹んでいた聖は、結婚の必要性を

子供の頃から感じてなかった俺、渡邉凛太郎とこんな風

に出会い結婚した。


 聖が入社して1年と少し過ぎた頃に社内に向けて結婚

を発表した。少なくとも入社3年は仕事を続けてもらわ

ないと会社に対して申し訳がたたないので、その後の2

年間は夫婦共働きで家事もお互いに分担して聖には働き

続けてもらった。結婚3年目が終わる頃そろそろ子供を

と、ふたりの意見も一致したことで丸3年勤めて聖は退職

した。そんな順風満帆と思えた結婚生活を送っていた

のだが・・。


 独り暮らししている俺の父親のことを何くれとなく気に

掛けてくれるし、その後子供が産まれ大変だろうに子育

ても家事もほぼ完璧にこなしてくれ、居心地の良い家庭

を俺に与えてくれている。未だに俺に対しても気配りを

忘れず尽くしてもくれている。そんな良妻賢母を絵に描

いたような妻が元彼とヤッてやがりましたぁ~。俺、すご

く凹むぅ。


 疑いようもない残っていたメールの数々を目にしても

なかなかその事実を俺の脳は受け付けなかった。信じた

くはないよな、こんなこと。


 それと聖・・お前に何の話し合いもせずに捨てるよう

に目の前から居なくなった相手なんだぞ。


 何でそんな奴とヨリを戻したりできるんだ、嘘だろ?

っていうのと、お袋しかり妻しかり、どうして俺はこん

なビッチな女達としか縁が無いんだという絶望感がじわ

じわと押し寄せてきた。


 


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