第7話 ◇早い者勝ち
7.
振り返ってみると不思議なほど迷いなくあの時俺は
聖を手に入れようと決めたように思う。
しかし、なかなか俯瞰して見てると面白い飲み会だったな。
俺はわざと聖から一番遠くの席に着いていた。あまり近いと
女優になれない素直な性質の聖がボロをだすんじゃあないかと
思ったからだ。
まぁ、相談役という立場で、まだ正式に付き合っては
なかったが。
もう付き合ってるカップルが1組いたわけだが、俺と聖を
除いて女子4人、男子7人。
俺は自然を装ってカップルが座る近くに聖を押し込んだ。
聖の前に陣取った奴は押しが強くなくて草食系のやさしい
気のいい奴だ。だからこそ、イケイケになれなくてカップルの
近くで聖の前に座ったんだろうけどな。
あとの5人の野郎どもはそれぞれお目当てがいるらしく席を
取る時はなかなかな様相だった。
C子はちょっと気の毒だったな。
B子とD子の間に座ってたんだが、前に陣取ってる男3人が
B子狙いで、これまたあからさまだった。
C子はほぼほぼガン無視されていて。
聖がいなけりゃぁ、俺は気を利かせてすぐにやさしい系の
W男の前に席を誘導してやったかもしれん。だが聖の前に
座らせることのできる男はW男しかいないので、しなかった。
スマヌ、C子よ!
-
そしてその隣の陣がD子を取り巻く連中。D子の隣にM男
M男の前がZ男。俺はその向かい合って座ってるM男とZ男の
隣だった。
皆が二列になって座ってたんだがそう、俺は店の入り口から
見て真正面の席に座ってたわけだ。それぞれの様子が一番
よく見える場所とも言えた。
カップルのA子とY男は聖や聖の前に座ってるW男にも
話を振りつつ、4人でまったりと和やかな雰囲気で話できてた
ようなので、聖をあそこに押し込んだのは正解だったな。
聖が時々、ほんとに時々、遠慮がちに俺の方を見るんだよな。
んで、俺と目が合うと慌ててムリクリA子たちの話に戻って
行くって感じ。かわいかったなぁ。
モテモテのD子が時々、俺にも話を振ってくれるんだが
心の中で、気を遣わんでよろし、俺はずっと聖を見てたい
んだぁ~なんて思ってた。
お開きになって店を出る段に、聖にメールを送った。
彼女と視線が合った時に「スマホ」とそっと無音の言
葉を放った。
「久し振りに今日はふたりで帰ろうか! 皆と別れたら
○○駅で降りてそのままホームで待ってて!!」
「はい」
聖の返事を待って俺は社の皆と一緒に店を出た。彼女
の顔は見なかった。俺の指示通りホームで待っていた聖
のはにかみながらうれしそうな顔を見て、この時にはも
う彼女との結婚を決めていたっけな。
-
決断してからは、早かった。付き合い始めてから一年
後には結婚していた。ふたりの交際は、結婚式の直前ま
でオフレコにしておいたので、公表した時の周りの驚き
ようは半端なかった。一番多く聞かれたのが「いつの間に
!!」だった。
聖には恋人います宣言しているのだから、その恋人と
は未だ続いていることにしておくよう申し渡していた。そ
して彼女も俺の言い付け通り、それを守った。だから独
身男子社員の中には、本気で悔しがっている奴が何人か
いた。知らんがな、早い者勝ちなんだよぉ、こういうの
は。
まぁ多少卑怯であったかもしれないが、他の男に渡す
わけにイカンだろう。皆の者(独身男子社員たちよ)許してち
ょんまげね……っと!
あとから知ったことだが、俺が聖の教育係りに決まった時
独身の男子社員たちは、こぞって自分たちの不運を嘆いたら
しい。だがその風向きはすぐに別の方向へと変わったら
しい。それは、聖が「恋人います」宣言をしたからだっ
た。
渡邉も折角良い出会いのチャンスである松本聖の教育
係りになれたのに、恋人持ちじゃあね、と。
羨ましい対象から可哀想なヤツになっていったらしい。
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