第7話 This Feeling この想い
7.
== 渡邉凛太郎 + 松本聖 ==
振り返ってみると不思議な程迷いなくあの時俺は、聖
を手に入れようと決めたように思う。
しかし、なかなか俯瞰して見てると面白い飲み会だったな。
俺はわざと聖から一番遠くの席に着いていた。あまり近いと
女優になれない素直な性質の聖がボロをだすんじゃあないかと
思ったからだ。
まぁ、相談役という立場で、まだ正式に付き合っては
なかったが。
もう付き合ってるカップルが1組いたわけだが、俺と聖を
除いて女子4人、男子7人。
俺は自然を装ってカップルが座る近くに聖を押し込んだ。
聖の前に陣取った奴は押しが強くなくて草食系のやさしい
気のいい奴だ。だからこそ、イケイケになれなくてカップルの
近くで聖の前に座ったんだろうけどな。
後の5人の野郎どもはそれぞれお目当てがいるらしく席を
取る時はなかなかな様相だった。
C子はちょっと気の毒だったな。
B子とD子の間に座ってたんだが、前に陣取ってる男3人が
B子狙いで、これまたあからさまだった。C子はほぼほぼ
ガン無視されていて。
聖がいなけりゃぁ、俺は気を利かせてすぐにやさしい系の
W男の前に席を誘導してやったかもしれん。だが聖の前に
座らせることのできる男はW男しかいないので、しなかった。
スマヌ、C子よ!
そしてその隣の陣がD子を取り巻く連中。D子の隣にM男
M男の前がZ男。俺はその向かい合って座ってるM男とZ男の
隣だった。
皆が二列になって座ってたんだがそう、俺は店の入り口から
見て真正面の席に座ってたわけだ。それぞれの様子が一番
よく見える場所とも言えた。
カップルのA子とY男は聖や聖の前に座ってるW男にも
話を振りつつ、4人でまったりと和やかな雰囲気で話できてた
ようなので、聖をあそこに押し込んだのは正解だったな。
聖が時々、ほんとに時々、遠慮がちに俺の方を見るんだよな。
ンで、俺と目が合うと慌ててムリクリA子たちの話に戻って行く
って感じ。かわいかったなぁ。
モテモテのD子が時々、俺にも話を振ってくれるんだが
心の中で、気を遣わんでよろし、俺はずっと聖を見てたいんだぁ~
なんて思ってた。
お開きになって店を出る段に、聖にメールを送った。
彼女と視線が合った時に「スマホ」とそっと無音の言
葉を放った。
「久し振りに今日はふたりで帰ろうか!皆と別れたら
○○駅で降りてそのままホームで待ってて!!」
「はい」
聖の返事を待って俺は社の皆と一緒に店を出た。彼女
の顔は見なかった。俺の指示通りホームで待っていた聖
のはにかみながらうれしそうな顔を見て、この時にはも
う彼女との結婚を決めていたっけな。
決断してからは、早かった。付き合い始めてから一年
後には結婚していた。ふたりの交際は、結婚式の直前ま
でオフレコにしておいたので、公表した時の周りの驚き
ようは半端なかった。一番多く聞かれたのが「いつの間に
!!」だった。
聖には恋人います宣言しているのだから、その恋人と
は未だ続いていることにしておくよう申し渡していた。そ
して彼女も俺の言い付け通り、それを守った。だから独
身男子社員の中には、本気で悔しがっている奴が何人か
いた。知らんがな、早い者勝ちなんだよぉ、こういうの
は。
まぁ多少卑怯であったかもしれないが、他の男に渡す
わけにイカンだろう。皆の者(独身男子社員達よ)許してち
ょんまげね・・っと!!!
後から知ったことだが、俺が聖の教育係りに決まった時
独身の男子社員達は、こぞって自分達の不運を嘆いたら
しい。だがその風向きはすぐに別の方向へと変わったら
しい。それは、聖が「恋人います」宣言をしたからだっ
た。
「渡邉も折角良い出会いのチャンスである松本聖の教育
係りになれたのに、恋人持ちじゃあね」と。
羨ましい対象から可哀想なヤツになっていったらしい。
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