第5話 This Feeling この想い




== 渡邉凛太郎 + 松本聖 ==


5.



「ありがとうございます。」

 

 聖はすっかり頼れる存在が出来たことでほっとした

のか信頼し切った様子で返事をした。


その様子を見て、凛太郎は本当に聖をずっと守ってや

りたい気持ちになった。


彼女には人をそんな気持ちにさせる一途さがあった。

生き方が不器用な聖。


 俺は子供の頃から結婚というものに、ちっとも希望だ

とか明るい未来だとか幸せな家庭だとかいうような言葉

を結びつけて考えたことはいちどもない人間だ。


母親は俺5才の時に他所に男を作って出て行った。


だからその後は大学を卒業するまでの間、父親と2人っき

りの生活で普通の家庭というものを知らずにきた。


 そのせいか女性に対して、特別な気持ちを持つという

ことなく過ごしてきた。


裏切られることが怖いせいなのか?



 それともただ単に性格的なモノで女性に幻想を持てない

だけなのか、一度も好きな女性が出来たこともなければ異性

にときめいたこともない。




 巷の、まぁ大学の頃で言うなら


周りの同級生たちが・・・

社会に出てからは会社の同僚達が・・・

 

「あの彼女が良い、いやこちらの彼女が良い。」と

色めきだっている姿を遠い場所から眺めている醒めた

自分がいた。


 誘われて数人でのデート、2人っきりのデート位はあるが

そんなこんなで今まで誰ともちゃんと付き合ったことはない。


 世間的には情けない男と烙印を押されそうだが。


 何を隠そう、例え直々のデートや交際の申し込みでないに

しても自分からメルアドに電話番号を交換するなんて聖が

初めてのことだった。


整った造詣をした容姿を持ちながら

かなりギャップのある内面を知るにつけ、心が動いた。


自分の心を動かすような存在など、この先も一生無いと

思っていたので自分自身がこの成り行きに一番驚いた。





-719-

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る