第3話 This Feeling この想い

3.


 6月に入り倉本から完全に振られたのだと自覚して

からは悲しい想いで過ごしてきて、皆の前で恋人います

宣言していたことなど今のいままですっかり頭から抜け落

ちていたことを思い出し、聖はそんな自分にガックリして

しまった。


 そして今自分が凛太郎にどんなに浅ましいことを発

言していたかを振り返り激しく動揺してしまった。


 とてもどうしてそんなことを口走ったのかを冷静に説明

出来そうになく、そしてまたこんな失態で凛太郎から軽

蔑されるのだけは避けたいという思いから、しどろもど

ろの返事になってしまった。


「えっ、あの、ち、違うんです。あの、違うンです。恋

人はいたんですけど、けど・・」



「過去形になっちゃったかぁ~!!」



 人の機微に敏く頭の回転の速い凛太郎は、「恋人はい

たんです・・」を聞き、どうやら過去話になっていること

を察知してくれたようで、聖はほっとした。



・・・



 この時、渡邉凛太郎は聖を可愛い女の子だなと再認識

したのだった。教育係りになった時から聖のことはずっと

気になる存在ではあったのだが、何といっても恋人宣言

している子に手を出すことは憚られた。凛太郎の勤める会

社は倫理観に厳しく不倫等はもってのほかという社風

があり、また個人的にも人のモノに手を出す趣味は持ち

合わせておらずで、聖にはなるべく興味を持たないように

鋭意努力していたのだ。


 誰も誘ってくれないって、当たり前だっちゅーの。無

言の突っ込みを目の前の聖に入れた。恋人がいると宣言

したからこそ、他の独身男性社員達も品良く礼儀をわき

まえただけのこと。いつ頃別れたのかは知らないが、いつ

の間にか恋人いなくなってただなんて、皆んなは知らな

い・・ンだから。


 紳士で穏やかさが売りの凛太郎の瞳の奥に妖しい光が灯

り、じゃあゆっくり喰ってしまおうかなどと画策してい

ることを聖は知らなかった。






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