第五話 水の都ターウォ
「おい! 町が見えたぞ!」
御者をしてくれている小人のノルムさんの声だ。俺は荷馬車から勢いよく立ち上がった。ちなみにこの馬車には幌はついていない。
おお、どうやら今いる場所は高台のようだ。
「あ、あそこがターウォ……」
「き、綺麗――」
雲一つない空。燦々と降り注ぐ光がキラキラと反射していた。丘の下に見えるのはエメラルドグリーンの水を湛える湖。湖岸には真っ白な砂浜が広がっていた。
ここって海じゃないよな? まるで珊瑚礁で有名なビーチのようだ。こんなのが内陸で見れるなんてさすが異世界。
隣でサファイアブルーの瞳が輝いていた。ショートカットの金髪が湖面と同様に光を浴びてキラキラと揺れていた。う、可愛い……。
俺は頭を振って前を見る。ルシアのような小娘に見惚れるなんて不覚の極みだ。ちらりと隣を盗み見る。ルシアはこちらには目もくれずに丘の下の風景に心を奪われていた。良かった気づかれなくて。
「あれが噂の湖ダか。この世界で唯一、あの幻のプリスマが獲れるんダな!」
オーグはどうやら花より団子派のようだ。
「しかし、あの街の規模は半端ないな」
「漁業が街の発祥ではあるんだが、今やこの国の物流の要所となっているんだよ」
ノルムさんが説明してくれた。ターウォはちょうどこの国の中心辺りに位置するそうだ。
「ほら街外れを見てみなさい」
ノルムさんの指さす方向に目を向ける。
「な、なんですかあれは……」
トリケラトプスのような四本足の恐竜六匹が二列に並んでいた。その後ろにはこの馬車の数倍の大きさの荷台。それが何十個も連なっている。付いている車輪も馬鹿でかい。
「あれがこの国の中心を東西と南北に走っているんだ。主に食料や資材などを輸送している。あとは我々のような商人が馬車を使ってそれ以外の街へと運ぶって寸法さ」
まさに貨物列車ってとこだな。なるほどね。故郷の町が中世の僻地っていう割には塩や胡椒などが豊富で一切不便しなかったのが不思議だったんだ。思った以上に物流については整っていた。
「あー、やっとこの揺れからも解放されるわね」
「オラ、腰とケツが痛い……」
そう、侮っていました。異世界の馬車を。なんか体の大きな馬だなと思ってたんだけどパワーホースという半獣半魔の生き物でした。二頭立てで最高時速は四十キロは出ていたと思う。勿論、舗装された道路じゃないから突き上げが半端なかったよ。
あ、もしかしてルシアの瞳が潤んでキラキラしていたのって。単にお尻が痛くて涙目だったのでは……。俺の胸キュンを返せ!
ちなみに俺は尻も腰も痛くない。僅かに体を浮かせていたのだ。空の神の加護さまさまだ。どうも他人に対してはこの魔法をかけれないようで秘密にしていました。ルシアの訝し気な視線にも三日間耐えきったのだ。
「おー、近づくと街の外壁が立派なのがよくわかるな」
「カイトさん。私は商人専用の門を通るからここでお別れだ。君達は――」
「ええ、あそこの列に並べばいいんですね」
「そうそう。では君達の人生の成功を祈っているよ」
「ノルムさんも。帰りも気をつけてくださいね」
「ああ帰りはちゃんと護衛を雇うさ」
感謝の言葉を述べノルムさんと硬い握手をして別れた。結局、道中は魔物に襲われることは一度もなかった。魔物に出くわさなかったことが何より、とノルムさんは笑っていた。ただ乗りしたようで少し悪い気がしたのは日本人の性がまだ抜けていないのか。
「次っ!」
「えーと。カイト=シドーと言いま――」
「いいから早くこの水晶を触れ!」
「は、はい」
「問題なし! 前に進め」
「五百ジェンが三人分で千五百ジェンだ。ここに入れろ!」
「はい」
「入金確認。前に進め」
「これが許可証だ。有効期限は一週間だぞ。前に進め!」
「ここにサインをしろ!」
「はい」
「よし、街へ入って良し!」
「……はい」
「カイトどうしたの? 行きましょう」
「いや……。もっとさー、名乗ったり怪しまれたり水晶割れたりとか……。イベント的なコト無いわけ?」
「こんなに待っている人が多いのにいちいちそんな時間かけてられないでしょ」
「そうダぁ。犯罪者はあの水晶が赤く光るんダ。そったら色々と取り調べがあるらしいど」
「世知辛い異世界だな」
「は? なんか言った?」
俺は一人首を振って街へと入る。
「おぉぉぉおお! これだよこれ!」
まさに中世ヨーロッパの街並み。石畳と石造りの高層建築が目の前に広がっていた。そして甲冑やら革鎧、煌びやかな服装など雑多な人で
エルフも僅かながらいるようだ。院長先生とルシア以外見るのは初めてだな。あれ、エルフって――。
「なによ……。何か文句でもあるわけ」
エルフって別に絶壁じゃなかった。遺伝だったのね。と、早くも蹴りが飛んできた。
「板っ!」
「むっ! 足りないようね!」
「痛い痛い痛い! ちょ、まじ止めろって! 俺は何も言ってないだろ!?」
「視線が不快なのよ。あとわざと間違えたでしょ」
「二人ともやめてけれ。周りから見られてる。オラ恥ずかしいダ」
よし、気持ちを切り替えよう。折角テンションが上がったのだからな。外壁が円形だからおそらくこの街並みは同心円状になっているのだろう。そうすると、ギルドや商店街は中心近くにあるとみた。もしかしたら教会が中心にあるのかもしれない。
「さっ、二人ともさっさといくぞ!」
「もー。カイトはこういう所はまだまだ子供なんだから」
「いいから! ほらほら!」
「あっ! ちょ――」
俺はルシアの手を引いて走りだす。ルシアが後ろで顔を赤くして何か言っている。なんだよまだ怒っているのかよ。まー、街の中心にいけば機嫌も直るだろう。
「お、置いてけないでくれー」
オーグがどすどすと俺らの背中を追いかける。が、鈍足なので距離はどんどんと開く一方だった。
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