第三話 ゴブリンの駆逐
『氷の精霊よ、凍てつく杭で立ちはだかる敵を串刺せ、出でよフラウ!』
私の前には水晶のように全身が光り輝く少女。一切の感情を忘れたかのような無表情。眉も動かさずにただ両腕を振るった。それだけで無数の氷柱が空中に現れ、河原を挟んだ対岸へと飛んでいく。
「「「ギャァア!」」」
ゴブリンたちの顔面へ氷の杭が次々と突き刺さる。その一撃だけでゴブリンは動かぬ屍へと変わり果てた。
「ふん、楽勝よね」
ゴブリンは一対一であればレベル3の村人でも倒せるのだ。今の私にとって大した脅威ではないのだ。彼に実力を見せつけるいいチャンスだ。私はそうほくそ笑む。
「おい、訓練場まで下がるぞ!」
戦士の誰かがそう叫んだ。どうやら訓練場の中に居た子供達の避難は完了したようだ。ただっぴろい河原ではなく狭い訓練場に敵を引き込もうとしているの?
「馬鹿ね。そんな必要ないでしょ」
私は再び右手を上げて唱える。
『風の精霊よ、向かい来る脅威を天高く巻き上げよ! 出でよシルフ』
先程とは違い微笑をたたえた少女が現れた。彼女が手を動かす度に小さな竜巻が発生し、ゴブリンへと襲いかかる。それに触れた瞬間、ゴブリンは空中へと打ち上げられていく。
これで二十体は倒したわね。狭い訓練場だと精霊魔法が使い辛いじゃない。流石に味方に誤爆させるわけにはいかないし。なので私は指示には従わずに周りのゴブリンを次々と屠っていった。そして気づいた時には――。
「はぁ、はぁ、はぁ……。まったく次から次へとしつこいわね」
十体ほどに取り囲まれていた。よく見るとその背後にもゴブリンの姿が見える。もしかしたらその後ろにもたくさん控えているのかもしれない。
そんなことを考えているとゴブリンの一体が背後からナイフを持って襲いかかって来た。
「はっ! 数で囲めば何とかなると思ったら大間違いよ」
ひらりと舞うようにしてその攻撃を躱す。同時に腰に差していた愛用ナイフを抜く。すれ違い様に敵の首を掻っ切った。グエッと小さな叫びをあげると、緑の血を噴き出しながらゴブリンは地に倒れた。
「魔法だけだと思わないことね」
私はすでに武器の扱いだって一人前の冒険者並みなんだから。
「お前たち私を襲ったことを後悔しなさい!」
そう言って目の前のゴブリンへと距離を詰める――。しかし、足が動かなかった。
「え――」
足元が土で固められていた。はっとして河原の対面へ顔を向ける。そこには杖を持ったゴブリンがいた。
「なんでこんな所にゴブリンメイジが……」
ゴブリンはレベルが3から4なのに対し、ゴブリンメイジはレベルが10を超える。今までこの周辺では出現したことはなかったはずだ。
ゴブリンたちがナイフを片手に私へとじりじりと近寄る。精霊魔法を放つためのMPもすでに底を尽きていた。額に嫌な汗が噴き出す。非常に不味い状況に陥っていた。調子に乗った私が馬鹿だったのだ。
目の前のゴブリンがナイフを振り上げて襲いかかってきた。相手の動きはよく見えるのに足の自由が利かないので躱せない。もう駄目だと固く目を瞑る。こんな所でまだ死にたくない。私にはやりたいことがあるのだ。気づかぬうちに私は想い人の、年下の少年の名を叫んでいた。カイト――。
「ん、呼んだか?」
「えっ――」
目を開けると少年の背中があった。襲いかかってきたゴブリンが血を噴き出して倒れるところだった。
「カ、カイト! なんでここに! あなたどこから来たのよ!」
私はゴブリンたちに取り囲まれたままだった。カイトが突破してきたような痕跡は見えなかった。
彼は振り返ると人差し指を空に向けてただ笑っていた。よくわからない少年だ。しかし、未だ危機の渦中にあるにもかかわらず、私はなぜかその姿に安堵していた。
◇◇◇◇
「なんとか間に合ったようだな。なあ、ルシア」
「な、なによ!?」
ルシアが顔を赤くして食いかかって来た。なぜにそんな反応?
「俺、無茶するなっていったよな」
「う……煩い! それよりどうするのよ! 依然として囲まれている状況に変わりはないわよ!」
「ふむ……。それよりもまずはこれかな」
ルシアの前に屈みこむ。彼女はホットパンツのような短いズボンを履いていた。なので目の前にスベスベで艶々の生足が……。これはやばいかも。
「ちょ、何してるのよ!? このスケベ! 変態!」
ルシアの顔が熟れた林檎のように染まっていた。このままこうしていたいが、そうすると後が恐ろしい。仕方ないと、俺は彼女の足首を固定しているものに触れる。
「無効」
「え! 足元の土が消えた!? ちょっと! 何したのいま!」
「だから無効にしたんだって」
「そんな魔法聞いたことないわよ」
まあ、土の神様から頂いた加護の力だからな。
「土手の上から皆が見てるな」
「ええ」
兵士や町民などがこちらを指さして、叫んだり、顔を覆ったりしていた。まあ端から見るとどうみても絶望的な状況だもんな。
「こいつらを全部倒したら、流石に実力を認めて外に出してくれるかな」
「こいつらって私達を囲っているゴブリンのこと?」
「いや、全部だ全部。河原の向こうにいるゴブリンメイジも含めてな」
「カイト、自分の言っていることわかってる? 百体以上いるわよ」
まあ、それ位なら何とかなるか。さてと……。
「無限地獄」
「「「グギャグギャギャアア!」」」
うーん。なんて耳障りな叫び。
「ちょっ! カイト! これどういうことよ!」
「ゴブリンがぐるぐると回って土に埋まっていってるな」
「そうじゃなくて! こんなふざけた魔法ないでしょ! ていうかあんた魔法なんて使えたの!?」
「隠してたからな」
そう、鑑定があるってことは隠蔽もあるだろう。そう思ってステータスを隠したい隠したいと強く念じたら隠蔽というスキルをゲットしたのだ。隠蔽するとステータスの《》の中へと隠れる。
念じれば叶う。なんて楽ゲー。ちなみに俺は一般的な魔法は一つも覚えていない。というか知らない。全部精霊魔法? いや神の加護の力だから神魔法なのだろうか。よくわからないけど好きに使えるからいいか。
「魔法はイメージなり!」
「いきなりどうしたの?」
「いや……。なんでもない」
そういえば気づいたらレベルが上がっていたな。頭に聞き覚えのあるリズムが小気味良く繰り返し鳴っていた。
□名前:カイト=シドー
□種別:
□年齢:5歳
□レベル:12
□HP:17/17《7000/7000》
□MP:8/12《1200/1700》
□敏捷:280
□職業:
□魔法:なし
□スキル:なし《異世界言語、鑑定(3)、隠蔽(2)、武術初級(3/5)、馬術初級(2/5)、算術上級(5/5)、無病息災、成長促進、経験値増加(1)、十二神の加護(MAX)、無限収納(低)、異世界アタッシュケース(小)》
うん、自分が如何に人外なのかよくわかりました。スペックがマジぱない。そして神魔法よ、燃費悪すぎるだろ。これだけMPあって三回しか使えないってどういうことだよ。ていうかレベル上がらなかったら一発しか放てなかったんだけど。
算術がやたら高いのは、この世界のレベルが単に低いからだな。微分積分の出来る俺は算術マスターってことだな。はっはっはっ……。どこで使えるのか知らんけど。
「さて、ゴブリンは全て土の中に消えたようだな」
討伐部位か知らんけど、あちこちに耳たぶが落ちていて気持ち悪い。
「ほんと無茶苦茶ね……。まあいいわ、みんなのところに帰りましょ」
「いや……。次は森の中へと入る」
「なんでよ!」
だって、土手の上から俺を見つめる視線が痛すぎるんだもの。
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