最終話「数学教師(魔王)と自称勇者一行の最終決戦」

~魔道士の居る3年3組の教室~

「お前、ちゃんと制服を着ろ。」

頭の固いで有名な数学教師はメガネを人差し指で上げながら勢いよく教室の中に入ってきた魔法使いに言った。

「勇者が腑抜けになってしまったのはお前のせいだな?」

そう言いながら木で出来た杖(普通に100円ショップで売っているような物)を数学教師に向けて魔法使いは言った。

「俺は、お前を倒して勇者の目を覚まさせる!!」

そう言って魔法の杖を振り回しながら何やら怪しげな呪文を唱え始める。

教室で数学の授業を受けていた生徒は興味津々にその魔法使いに視線を集中させる。

「喰らえ!!チョークの粉!!」

魔法使いは大きな声でそう言うと持っていた杖を壁に立てかけ、後ろのロッカーにしまってある箒と塵取りを取りに行った。

その間に数学教師は魔法使いが立てかけた杖を没収した。

魔法使いは箒と塵取りを手にすると黒板の溝を掃除し始めた。

その光景を一同は黙って見つめる。

ようやく集め終わったのか魔法使いは勢いよく塵取りで取ったチョークの粉を数学教師に投げようとしたが軽々と没収されてしまった。

「掃除は良い事だが、今は授業中だ。」

そう言いながら数学教師はズボンのポケットから赤い紙を取り出すと魔法使いの胸に突きつけた。

「放課後、その紙いっぱいに反省文を書いて提出する事。」

すると魔法使いは大した攻撃を受けていないのにもかかわらず、血を吐く様なマネをしてゆっくりと床にしゃがみ込んだ。

「く・・・。思っていたよりも強い様だな・・・。」

死にかけていそうな声で魔法使いが言ったその時、魔法使いの頭上を元勇者が飛んだ。

数学教師は飛んできた勇者を軽々とよけた。

そして、勇者は誰にも受け止められることなく壁にぶつかった。

勇者が飛んできた方へ視線を向けると色々おじさんっぽい中身が出ている妖精が息を荒げながらそこに立っていた。

「勇者の渾身の攻撃をよけるなんて・・・。想像以上に強いわね・・・。」

もうキャラクターが崩壊しきったような声で妖精は言う。

これはさすがに数学教師も突っ込むだろうと生徒の誰もがそう思ったが数学教師はポケットからあの赤い紙を取り出して妖精と勇者に突きつけた。

「お前ら全員、放課後生徒指導室に来い。」

すると貼られた二人は魔法使いと同じような反応をして見せた。

「く、くそ・・・。でも、俺は魔王なんかに負けない!!」

そう言って勇者は妖精のせいでダメージを受けた体でフラフラと立ち上がった。

「俺は、もう逃げないってさっき決めたんだ!!お前を倒して、この丸坊主から元のサラサラ黒髪に戻るんだ!!」

言っている事はおかしかったが見ている側にも熱が入った。

勇者が勝てば良いのに・・・。

生徒たちの願いが一つになったような声が勇者の耳だけに届いた。

そして、勇者はポケットから取り出した卓球の球を数学教師に向かって投げた。

今、勇者の心の中だけでみんなの聞こえない応援の声が聞こえた。

それと同時にチャイムが鳴った。

「はい。号令して。」

勇者が投げた球を教科書で強く跳ね返した。

「起立!!礼!!」

生徒たちは今まで何事もなかったようにそう返事した。

そして、勇者は数学教師が跳ね返した球をお凸で受け取り、砂袋を地面に落としたときと同じ音を立てながら倒れ込んだ。

「お前ら、ちゃんと来いよ。」

そう言うと数学教師は教室から出て行った。

やっぱり、普通が一番だよね。

にこやかかつ、清々しい顔をしてもう一人の彼女に私は言った。

彼女は嬉しそうな顔をしながら溜息を吐いた。

‘そうでしょ。普通が世の中一番なのよ‘

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勇者戦記 雨季 @syaotyei

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