最終話 ウラガモン




○大学内 “日向旱和の部屋” 午前

絢の事故から数日後。未だ、若い女性の死亡事故のニュースが昼夜問わずに流れている。

絢「これで5人目って...まだ犯人捕まって無いんですね...。」

日向に珈琲を差し出す。

日向「ありがとう。...お前も危なかったんだぞ。」

絢「えっ、そうなんですか?」

日向「耳鳴りに、かごめの唄、そして身体中に多くの怪我。この間までの小豆沢だろう。」

絢「❪怪我の痕を見て❫...確かに......。」

日向「ってか小豆沢、何で居るの。」

絢「偶にはお礼もと思って...。今迄の事とか。あ、お菓子も有りますよ!」


喰鬼〔❪日向の中で❫懐かれたな、美人に〕

日向(うるせーよ)


絢「て言うか先生、何で私の過去知ってたんですか?」

日向「...かごめの唄の由来を知ってたからだよ。別に小豆沢の過去は知らない。」

絢「じゃぁ、あの子が消えた後に何してたんですか?」


日向「......(そこ見逃して無いのかよ…)。」


絢「教えて下さいっ!❪ズイッ❫」

日向「...あんまり近いとキスしちゃうぞ。」

絢「...っ!❪離れ❫ご、誤魔化さ無いで下さいよ!!」

日向「......んー...。言っても信じないだろうしな。それでも聴きたい?」

絢「はいっ」


日向が少し黙る。


日向「......この間の水の子の霊は、喰鬼って言うんだ。」

絢「サオン...?」

日向「古い仕来たりや習慣の有る、至る所に存在する“鬼”...かな。」

絢「(...鬼......)...でも、あの子は白くて...普通の子供って感じでしたけど...。」


日向「小豆沢にはそう見えるんだ。」

絢「?」


日向「...人の死を見た人にしか、本来の姿は見えない。それが“喰鬼”。」


絢「...先生には見えるんですか、本来の姿が......」


日向「......まぁね。」

少し笑いながら、腕に付けていたブレスレットを転がした。


絢「(......)その、サオンは...何の為に居るんですか。」



日向「ヒトを殺す。」



絢「...っ!」


日向「...ニュースでやってるだろう。若い女性の事故。」

絢「あれも...サオンが......?」

日向「❪頷き❫誤った認識、無知、そして小豆沢の様に、辛い過去を消そうとする人間を殺す。」

絢「なんで...」


日向「...喰鬼は、元はただ、救われたかっただけの魂。幽霊なんだ。不幸な死で、この世を去ってしまった者。それなのに、多くの生きる者はそれを忘れ、幸せそうに次の人生を歩む。過去を無き物としてね。」


絢「......❪俯く❫」

日向「それも原因となって、喰鬼が生まれる。そして、もう一つが......」

首に掛けていた、ネックレスの先端の小瓶を見せる。

日向「コレ。」


絢「...これは?」

日向「喰鬼の元と成る大半を占めるモノ。怨念、憎悪、そういった少しの負の感情を持つ霊をも、ターゲットに、これを霊と一体化させる。すると、ただの浮遊霊も喰鬼に成ってしまう。」

絢「...❪生唾を飲む❫」

日向「それを救う為、当事者と喰鬼の間に居るのが俺。」

小瓶をパーカーの中へ隠す。

絢「...わざと、サオンにしている人が居るんですか...?」


日向「...親玉が居るんだよ。」



ふと、“日向旱和の部屋”の扉の前で足を止める人物。



日向「喰鬼を増やし、何かを企んで居る奴が。」



扉の外に居る人物は、静かに、ただ無言で立ち尽くす。



絢「...それは、だれ?」

日向「分からない。でも、...」



扉の外に立つ男の髪がゆるりと靡く。



日向「❪ニュースを見ながら❫この街に居るのは確かだ。」



男が、フッと笑った。

そして、足を進める。

「...もう、分かってるんじゃないんですか...日向先生。」



大学園祭の準備で賑わう廊下を、“実行委員”という、札を付け乍ら遠のく背中が揺れた。



日向「...それを誘き出し、この負の連鎖を止めるのが...俺とこいつの契約だ。」

絢「...こいつ?」

日向「...あー、まぁ、なんだ......。そのうち教える。」

喰鬼〔❪日向の中で❫バーカ〕

日向(イラァ)

絢「えー、今教えてくれないんですか❪ムスッとして❫。」


日向「.........。よーしっ、聴いたからには協力してくれるんだろうな、小豆沢!」

絢「えっ!?な、流さないで下さいよ!!嫌です!怖いですし!」

日向「この話は誰にも言っちゃいけない事だったんだがな〜...」

絢「ぐっ......」

日向「❪にやっとして❫相応の働き、期待してるからな、助・手♡」

絢「悪い顔してますよ!大人のクセにっ!!」

日向「お前も大人だろうが!」


そこにドタドタと入ってくる三人。


瀬戸「ちょっと日向ちゃん!何楽しそうな話してんの、俺も交ぜて!!」

瀬戸に飛びつかれ、座っていた椅子から落ちる。

日向「げっ...」


詩緒「てか絢、日向ちゃんの事あんなに嫌ってたのに凄い変わり様だね〜?何があったのかしら?❪ニヤニヤして❫」

絢「な、何も無いけど!?」

晃晶「...❪むっとする❫」


日向「❪瀬戸を退かし❫おっ前ら...いつから居たんだ!学祭準備はどうした!!」

詩緒「何々、日向ちゃん〜」

瀬戸「如何わしい事でも考えてたの日向ちゃん?」


絢「ちょっと、何も無いから!!」

瀬戸・詩緒「「否定するのが怪しい!!」」


頭を抱える日向。

口をパクパクさせる絢。


詩緒「でっ?で??どうなの〜?」

瀬戸「日向ちゃ〜ん??」

晃晶「❪むすっと❫先生...?」

日向「...ちょっと、お前ら何なの本当っ、散れ!!」


その騒ぎを面白がる様に、“日向旱和の部屋”の開け放たれた扉付近には、大勢の生徒が笑い乍ら集まっていた。









終わり。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『ウラガモン』 ひゅう @s0914

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ