第4話 怪我と唄

○大学内 一階廊下 夕方

本日二度目の日向と会う。

絢「......っ❪少し安堵❫」

誰も居ない廊下を延々と歩いて来た絢は少しホッとする。

日向「お疲れ...」

一礼し、通り過ぎようとした


日向「...また、来るよ」


ぼそりと呟いた。


絢「...っ!!❪振り返る❫」


日向「気を付けて帰りな。色々、ね。」



○大学内 “日向旱和の部屋” 夕方

ニュースを見ている日向。

再び新しい被害者が出たことを、ニュースキャスターが伝えている。

事故当時、近くに居た友人が泣きながら話している。

被害者の友人『ずっと...、唄が聞こえるって......っ、でも、病、院に...行っても...何とも無い、って...。絶、対...、おかし、い......のに......なんで......っう......』

現地アナ『その...唄は何だったか、聴いていましたか?』


その質問に答えた友人の言葉を聴いて、日向が目を見開く。そして、


日向「.........そうか。」


哀しそうに言った。



○大学敷地内 午前

大学園祭の準備に精を出す学生たち。その間を、プリントを、確認しながら校外へ出、買い出しに行こうとする絢と詩緒。

絢「あははっ、何それまじ!?」

詩緒「まじまじ!瀬戸に聞いてみなって!真っ赤になるよ!」

笑い話をし乍ら、階段を降りていく。

詩緒「あれ?絢、どうしたの?可愛い絆創膏して。」

絢「あ、コレ?昨日料理してたら何回か指切っちゃって!」

詩緒「え......」

眉を顰め、足を止める。

絢「ちょ、そんな大層な怪我じゃないって!」

詩緒「でも...❪不安気な顔❫」

絢「❪階段を降りながら❫よく有るじゃん、ほら、野菜の...」


ふと、階段の下に

あの鬼のような姿を見た気がした


一斉に全ての音が消える



...ごめ か...め かごの ...かの ...りは


いついつ ...やる


よあけの ... ...に つると か...が すべった


... ...ろの ... ... ... めん ... ... ...



階段を踏み外した。

詩緒「っ...!!絢っ!!」

絢「.........」

落下していく絢に向かって伸ばすも、手は届かない。

絢は白昼夢の様な眼で、ボゥッとしている。


ド............サッ


詩緒「!あっ...」

日向「...っと、危ないな...。」

運良く絢を受け止める日向。

詩緒「日向先生っ!!絢、いきなりボーッとして......❪困惑❫」

絢「...っ!」

我に返り、日向の腕を振り払う。

日向「おっ、大丈夫か?」

詩緒「絢っ❪抱き締める❫」

絢「...す、みません...。❪立ち上がって❫」

日向「...気を付けなよ、小豆沢。」

絢「......ありがとうございました...っ」

詩緒「あっ、絢、大丈夫?」

絢「うん、ごめんね。ボーッとして...。」

詩緒「...❪心配そうに見る❫」


日向「......。」

ドタドタと走って来る晃晶と瀬戸。

瀬戸「はっはー、日向ちゃん今の格好良かったぜ!」

日向「...馬鹿にしてるだろ、お前。」

瀬戸「いやいや、まじで!」

晃晶「あいつ、大丈夫でした?」

日向「ん...、さっきので怪我は無いと思うけどな。普通に歩いてったし。」

晃晶「......最近、怪我の回数半端じゃ無いし、窶れて来てますよね。」

瀬戸「あー、それに唄も聞こえるとか言ってなかったか?」

日向「...唄......(やっぱり...)。どんな唄か分かるか?」

瀬戸「俺は全く知らない唄だったな〜...なんだっけ?❪晃晶を見る❫」

晃晶「俺も良く知らねーけど...“かごめ”とか言ってなかったか?」


日向「......(確定だな...)。」



○交差点 夕方

大学から家へ帰る途中の絢。いつもの足取りで歩道を歩いていると、大きなブレーキ音が耳を劈いた。


絢「......!❪目を見開く❫」


腰を地面に強打し、呻きをあげる。

目の前にはミラーの曲がった軽自動車。


ザワザワと集まる通行人。その中で絢を見つめる二つの目。


軽自動車の男性「大丈夫!?ごめん、急にハンドルが利かなくなって...!」

内出血している腕、擦りむける脚。


脳裏に、日向の言葉が浮かぶ。

日向『また、来るよ...』


その時、人混みで揺れた、一つの影。

絢「.........」

白い、人間のような影。

少しクセのある髪。


それは


絢「...え......」


誰かに似ていた。


突然、唄が大きく鳴り響いた。


絢「❪両耳を押さえて❫......何、なの.........何で......っ」



○大学入口付近 正午

腕には痛々しく包帯が巻かれ、脚に大きな絆創膏を貼った姿の絢に驚く二人。

詩緒「えっ...絢、ど...したの?」

晃晶「❪驚きを隠せない❫......っ」


楽しそうな背景の会話の中で揺れる唄。


絢「...あ、ちょっとね。❪力無く笑う❫瀬戸と斗々は?」

詩緒「え...?瀬戸は奥で屋台の組み立てしてるけど。斗々は委員で大学内走り回ってるから、どこに居るかは...。」


絢の姿を見つける日向。

生徒と話していた。

日向「......。」

絢が怪我をしている事に眉を顰める。


絢「...そ、か。❪頭に手をやる❫」


全ての雑音が唄の様に



(F.B)

病院で泣き崩れ、母親に縋り付く絢。


家で窓から空を見つめ、お腹に手を置く。細く、頬の痩けている絢。


亡くなった真嵜のお墓の前で、泥だらけになり乍ら、雨の中謝り続ける。



絢「...やだ......っ、思い出したくない!!」

その時、

側にあった木材がグラリと揺れ


日向「!!」


絢目掛けるように降ってきた。


詩緒・晃晶「 絢っ!! 」


日向が、手を伸ばした。








...つづく

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