第2話最果て探検部 ②

「それでは、探検うほうほ会議を始めます。書記の上原!」

「はーい!」

「メガネかけてるけど、本当はバカの山岡!」

「ここに」

「我が部唯一の新入生、作間透!」

「はい」

 授業が終わり、部活動に顔を出した僕を待っていたのは、今週の土日、どこに探検に行くかという会議だった。

「皆の意見を集めたい」

「えーと、この前、稚内まで行ったから、あたし、京都がいい」

「うーん、いいじゃない。古き良き都を探検。採用!」

「まってください、部長!俺の意見も聞いてください」

「許可する」

「俺は、あえて、ここは遠出しないで、近場で済ますと言うのは?」

「と言うと?」

「新入生もまだ、探検部に慣れていない。その上、遠出となるといささかレベルが高い。だからこその、稚内です」

「全然近場じゃないですか!」

「作間、そう慌てるな、こういうのは慣れだ」

「というより、稚内なんて飛行機ですよ?お金もないし、時間もないじゃないですか」

「何言ってるの、自転車よ」

「は?」

「そりゃ、あたしたちアルバイトはしてるけど、お金ない時は、自転車よ」

 正気じゃない。え、本当に自転車で行ったの?

「まー、稚内は、部長の運転で行きましたけどねー」

「そうね、私が新入生の頃の部長は本気で自転車で行ったわ。どこぞの漫画か!と思ったもんよ」

「うむ、探検部初代部長の富岡さんですね」

「そ、富岡さんに比べればあたしたちは柔らかいもんよ」

「皆についていけませんよ!」

「我儘ねえ、学校除籍になるくらいの気持ちがなきゃ、この部活道はやってけないわよ」

「除籍になったら、部活どころじゃないですよ!」

「そうなのよねえ、富岡先輩、無断欠勤でふらふらエベレストまで行くって言ったきり2カ月帰ってこなかったわね。帰って来た時には、退学になってたわ。その最後のセリフが、お前たち、俺の事は嫌いになってもいい、けど、探検部のことだけは嫌いにならないでくれ。お願いだぴょーん。だったわ」

 もういい、ろくでもないひとなのは分かった。

「まー、あれだよ。作間君。この部活道は今やお気楽レジャーサークルみたいなものだから、そー、気張らなくても良いと思うよ?」

「うむ、というより、稚内行ったのだって、春休みの話だしな。いつもは、ここでぐだぐだしているだけだ」

 そうなの?

「そうなのよねえ、遠出するとなると、学校休まなきゃいけないし、行くとなると春休みとか長期の休みを使うしかないのよねえ」

「今日も平和ですね―」

「でもよ!、初代富岡先輩の意思を継いでいる以上、ここは初心を取り戻すわ」

「となると、稚内ですか」

「あんた、どんだけ稚内好きなのよ」

「山岡は馬鹿ですからー」

「初心というのはね、ロマンよ。何も馬鹿みたいに遠出することがそもそものスタートじゃないの。冒険心を忘れないでいようっていうのがこの部の起源なの」

 そうだったのか。

「といわけで、オペレーション緊急レベル6を発動よ!」

山岡さんと上原さんが驚いている。

「ぶ、部長!まさか、本当にやるんですか」

「ええ、覚悟の上よ。オペレーション緊急レベル6を体験するのは高校一年生の時以来ね」

「噂には聞きましたけど、あたしは初めてです」

「あの、ついてけないんですけど、何ですか、そのオペレーション6って」

「学校を無断で1週間休むわ」

「無茶ですよ!」

「そうね、良い指摘よ。だけれども、それしかないの。あたしたちが初心を取り戻すのは」

「他の先輩方はどうなんですか!本当にそんなこと実行するんですか!」

「えーと、あたしはいいと思うよ。1週間くらいじゃ退学にはならないし、こってり怒られるだけだもん」

「だって、親とかにどう説明するんですか」

「作間、俺が教えてやろう」

 山岡先輩は、何故か、かっこつけながら校舎下を覗き込む。

「いいか、生きている以上避けてはならない困難がある。そんな時、俺たちが取る手段はただ一つ。土下座して謝ることだ」

「えー」

「というわけで、明後日の朝、あたしの家に集合よ。作間には、後でラインで住所教えるわ」

「え、ちょ、まって」

「かいさーん」

 えぇ。どうなってるのよ。


 朝、眩しい。まだ、初春ともあって、少し肌寒い。

「おー、みんな来たわね」

 既に上原先輩と山岡先輩は着いていた。

「部長の親御さんは何も言わないんですか」

「あー、あたしの家はまあ、色々あってね。放任主義なのよ。こう、強く生きろ的なね」

「まあ、それならいいんですが」

「うー、まだ、寒いです―。季節はもう春なのにー」

「ところで部長、どこに行くおつもりか」

「古来より、古の都と言えば京都、京都と言えば会席料理、会席料理と言えば、あたし、あたしといえば、探検部こういうことよ」

「いや、意味分かんないですよ」

「れっつごー」

「うわー、マイペースだなー」

 部長の車に乗り込む。5人は楽に乗れる中型の車だ。

「星月せんぱーい、あたしサービスエリア寄りた―い」

「よかろう、よかろう」

「今からだと、有名なサービスエリアがありますよ」

「おっ、いいじゃない」

 部長が声を上げる。

「部長、ちょうど休憩も兼ねて昼飯にしてはいかがか」

「そうね、腹が減っては戦は出来ないと言うしね」

「思ったんですけど、先輩方、リッチですね。僕なんてお金はお年玉貯金を崩すぐらいしかできなかったのに」

「みんなバイトしてるからねー。こういう日のために暇な時は働いてるのよ」

「へー、ちょっと意外」

「作間、大きな事をやるのは小さな事の積み重ねがあってこそだぞ。だから、俺はサービスエリアでメロンパンを10個買うのだ」

「いや、食べきれないでしょ」

 部長が冷静に突っ込みを入れる。

「ふふ、甘く見ないでいただきたい。この山岡、メロンパンだけは別腹としてストック出来るハイパーな逸材なのです。もう、俺こそがメロンパンの神として後世に語り継がれる生ける伝説なのです」

「あーわかったわかった。どうでもいいけど、もう着くぞー」

 有名どころのサービスエリアだけあって、敷地は広い。ショッピングモール並みだ。

「あ、見てみて。あそこでテレビ撮影やってる。うはー、あれ、俳優の田所淳也じゃん!チョーイケメン。サインもらいたい~」

「ふっ、テレビごときではしゃぎおって、そう言う所が精神年齢が幼いのだ」

「何よ、山岡が一番はしゃぎそうだけど」

「馬鹿を言うな、俺は、こういうときは群衆から一歩引いて俯瞰して物事を眺める習慣を持っているのだ。人としての骨格が違うのだ」

 メロンパンの神なのに。

「こらこら、ケンカはやめーい」

 皆、車から出て、外の空気をゆっくりと吸い込む。

 ずっと車内にいたため、外の空気がおいしい。

「星月部長、お昼ごはんはどうしましょうか」

「まー、こういう所に来たら、買い食いしょ」

「あー!宇都宮やきそば。おいしそー」

「というわけだから、各自自由行動30分後に、そこのベンチに集合してお昼にしましょう」

 ということになり、部長は肉―!と叫びながら走って行った。山岡先輩はメロンパンなちゃーんと叫びながら(頭が心配である)走っていった。

 残ったのは、僕と上原先輩だけになった。

「ねね、作間君。一緒にテレビ中継見学に行こうよ」

「いいですよ」

「ありがとう!やっぱ、こういう時は後輩君だよね」

 上原先輩がウインクをしてくれた。ちょっとどきっとした。

 どうやら、テレビは芸能人がサービスエリアのグルメを満喫するような趣旨らしい。

 先ほどから、上原先輩は俳優の田所淳也にお熱である。

「かっこいいよね~。あの、スタイルとあの笑顔。むはー、たまらんですよ」

「親父臭いですよ」

「いいのー。こんなチャンス中々ないよ?さらけ出して行こうよ」

「でも、周りの人も凄いですね」

「うーん、やっぱ、淳也でしょ」

「あれ、そこにいるのって」

 撮影を一時中断して、出演車がはけ始めた時、田所淳也というアイドルが何故か僕たちの所にまで、やってきた。

「うわー、懐かしいな!作間君だ」

「え、え。え?」

 むかつくほどに好青年スマイルで近づいてくる田所。

「いや、初対面じゃ」

「何言ってんだよ。俺だよ俺。忘れちゃったのかよ。小学校の時に、一緒だった田所だよ」

 回想。

 小学校の時の僕は、今とは違い。中々に行動力のある少年だった。

「おい、田所。お前、どうしちまったんだよ」

「作間君。僕ね、もう学校に来たくないんだ」

「だって、お前。すげーじゃん。その年であれだろダンスやったり、仕事もしてるんだろ」

「そうだけど、僕はやりたくないんだ。ママがやれって、全部僕のためだって。でもね、ここに僕の居場所はもうないんだ」

「…田所」

 僕は一呼吸を置く。

「分かった、なら、約束だ。お前の居場所は俺が作ってやるよ。何言われたって気にするなよ。俺はお前の味方だ」

 そうだ、その時の田所の顔はたしかに笑ってた。

「あー、あの田所か!え、なに、俳優やってたの」

「はは、作間君らしいな。たぶん知らないの作間君くらいだよ」

「へー、何か遠い所に行っちゃったな」

「ううん、俺はずっと作間君の事想ってたよ。小学校を卒業してから中学校が別々になっちゃって、会う機会もなかったけど、また会えてうれしいよ」

「そうだなー、立派になって」

「時間ある?立ち話もなんだから、どっかに座って話をしようよ。そこの彼女もね」

 ウインクを決める田所。

 突然の事でついていけない上原はきゅーと頬を蒸気させながら、倒れた。

 ベンチには、肉という肉をぶら下げている部長と、メロンパンをメガネみたく目にくっつけて、遊んでいる山岡先輩。

 風邪大変だねといいたいくらいの上原と、にこにこの田所がいる。

「で、聞きたいんだけど」

「はい」

「どう言う関係なのよ」

「同じ小学校だったんです」

「なのに作間は忘れてたんだ」

「面目ないです」

「で、そっちの田所さんは、覚えていたと」

「はい」

「って、山岡、メロンパンで遊んでんじゃねえ!気が散る!」

「し、しかし部長。メロンパンが僕のアイデンティティなんです。メロンパンだけは許してください」

 部長はメロンパンを取り上げて引きちぎった。

「あー!メロンパンがー!バラバラにー!」

「いや、普通に半分にしただけでしょ」

「はは、作間君の周りにはあいかわらず人が集まるね」

「いや、こいつぼっちだし」

「言わないでくださいよ!

「ところで、今日は平日だけど皆学校はどうしたの?」

「さぼったわ。スクールエスケープよ」

「淳也様。ち、違うんです。さぼったっていうより、私たち京都に行くんです!」

「いや、上原よ。それをさぼるというのでは」

「山岡は黙ってて!」

「はは、俺は全然いいと思うよ。若い時にしか出来ない事ってあると追うもんだ。だから、ちょっと羨ましいな。俺も時間があれば君たちと一緒に行きたいなあ」

上原は顔を真っ赤にしながら、うへーと奇声を上げている。

「そうだな、昔の旧知を温めるのも悪くない」

「忘れてたくせに」

いや、そうなんだけど。

「あ、そうだ。京都に行くんだよね」

「そうよ、京都に潜む未知なるロマンを探検しに行くわ」

「なら、こうして折角あったのも何かの縁だ。俺の母親の方の祖母が旅館を営んでるんだ。結構有名な旅館だから、そこに泊まるといいよ」

「ええ、いいのかよ」

「いいさ。俺から言えば料金はタダにしてもらえると思うよ」

「あら、それは嬉しいわね。やるじゃない田所君」

「ありがとう。その代わりと言っては何なんだけど。探検部の皆にお願いがあるんだ」

「お願い?」

部長が聞き返す。

「うん。その旅館ね。最近になって怪奇現象が起きてるんだって。原因は分からないんだけど、幽霊が出るらしいんだ。お客さんにまで目撃されていて、ちょっと、しゃれにならなくなってきたみたいで困ってるんだ。解決してくれないかな」

「部長、いかがいたしますか」

「そうねえ、まっ、やってみますか。タダで泊めてもらうんだし」

「うう、淳也様のお願いでも、私、幽霊駄目です」

「幽霊と決まった訳ではないわ。着いたら聞きこみを始めましょう」

「話しもまとまったようだね。俺はそろそろいかないといけないから、また会おう」

田所は立ち上がる。

「それと、作間君。また会えたんだ。近いうち会いに行くからね」

じゃあねといいながら田所は去って行った。

「しかし、驚いたわね。作間と田所さんが友達だったなんて」

「うー、作間君。何で黙ってたのよ。というより忘れてるなんて淳也様可哀想」

「うーん、変わりすぎてたってのもあるかなあ。昔は、もっとおどおどしてる奴だったんですけどね」

「昔と今。変わるものは変わるし変わらないものは変わらない。そう、この山岡の溢れるセンチメンタルな筋肉と同じように」

何故か山岡さんは服を脱いだ。結構着やせするタイプだ。

「まっ、泊まる所もきまったし。そろそろいくぞー」

「おー」

 ということで、車に乗り込み、再び出発することになった


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最果て探検部 @yu-12

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