最果て探検部
@yu-12
第1話最果て探検部 ①
4月。
出会いと別れの季節。
涙と共に散り散りになった中学時代の仲間たちも、今は別の所で僕と同じく新しい学び舎で入学式を迎えているはずだ。
つまり、これはチャンスでもある。
どちらかというと、冴えない部類にあった自分が高校デビューをする事で、爽やかなイケメンとまでいかなくても、彼、ちょっとイケてるんじゃない?という所を演出出来る機会な訳だ。
そう思うとこの1カ月が勝負所でもあるわけで、頑張らないとなあ、なんて思ってた自分がいた。
そう過去形。
入学式そうそう、その意気込みはたった一日で打ち砕かれた。
「諸君、私たちはどう学生生活を送るべきか、考えなくてはならない。私は考えた考えて考えた末に、たどり着いた答えがこれだ」
部活動案内。各、部活道が各々10分という与えられた時間の中で、部のPRを行う時間だ。その中に、星月清夏はいた。
星月は後ろに用意していた紙芝居を読み始めた。
「昔々ある所に、冴えない男子高校生とチョーいけてる女子高生がいました。二人は出会いました。何故か恋愛に発展しました」
「何故なら、男子高校生には他にはないある能力があったからです」
皆、ポカーンとしている。
そりゃそうだ。いきなり訳が分からない。
「そこの君!」
星月は指先を僕に向けた。
え、何、ちょーやめて欲しいんだけど。
「そこだよ、その冴えない顔した君だよ」
「え、僕?」
「お前以外誰がいるんだよ」
うるせーよ。というより、何の罰ゲームだ。
実行委員会らしき人が同情した顔をしながらマイクを持ってきた。
「…えーと、実は勉強が出来るとか」
「まじめか!」
お前は馬鹿かと言わんばかりの声だった。
むっとした僕は言いかえす事にした。
「じゃあ、何だって言うんだよ」
「うん、その質問を待っていた。答えはこうだ」
星月は、紙芝居のページをめくる。
『男子高校生は探検部だった』
は?
「つまりだ。男子高校生はあくなきロマンへの探求心の持ち主だった。そのロマン的なダンディズムが冴えない男子にも溢れだしていたのだ」
あほか。
「何も男子だけではない。女子にも応用可能だ。女子もロマンを追い求める事で、ロマン的な色々で女子力UPだ。是非、この探検部に入部しようではないか」
「以上、探検部部長、星月清夏さんでした」
実行委員会がもういいだろう的に星月の案内を打ち切った。
分かってもらえたと思うけど、この一件以来、僕は冴えない男子高校生というレッテルを貼られる事になってしまった。
「あー、作間君って、あれでしょ。部活動案内の時の冴えない男子高校生」
「こら、そういうこと言っちゃ駄目だって」
一人、教室で弁当をつつく僕。
クラスで友達作りにも失敗した僕は、残りの高校生活を思うと胃が痛くなった。
そりゃ、友達作りを失敗したのを全部星月のせいにする気はない。
だが!
あの部活動案内さえなければ、こんなことにはならなかったのではないか。
やり場のない怒りが込み上げてきた僕は、これはもう星月に一言文句を言ってやらなければ気が済まなくなった。
放課後、ぼっちの僕は、意気揚々と探検部が占拠しているという文化系が活動する離れ館の空き教室へ勇ましく立ち入った。
「星月はいるか!」
「あたしだけど?」
空き教室には、星月と先輩らしき眼鏡をかけた男子と、床に頬を付けている何か可哀想な女子がいた。
「むむ、もしかして、君は入部希望者。よっしゃああ。俺の賭けが勝ったぜ」
「えー、まだ入部希望者と決まった訳ではないですよ―。ちゃんと詳細を聞いてからが本当の勝負です」
「君、そこんとこどうなんだ」
メガネがかけた先輩らしき人が近づいてくる。
「入部するわけないでしょ!僕はね、この星月に文句を言いに来たんですよ」
「何よ、あんた下級生でしょ。先輩に向かって呼び捨てってどういうことよ」
「あ、あんたが、あんたが部活動案内の時に、めちゃくちゃな絡み方しなければ、僕は、高校デビューに失敗することなんてなかったんだよ!」
「あー星月先輩。あれですよ。この子、星月先輩が無茶な絡み方した冴えない君ですよ」
「あー、あの冴えない子ね。まあ、立ち話もなんだから座りなさいよ」
「あ、すみませんって座るかああ!」
「遠慮することないわよ。お茶くらい出すわ」
「そう言う事じゃなくてですね」
僕は、部活動案内からの今日にいたるまでの経緯を話した。
「むう、それは大変だったな。部長、彼を傷物にした責任は取らなくてはなりませんよ」
「大げさねえ、今から友達作ればいいじゃない」
「えー、それって無理ゲ―ぽくないですか。友達作りなんて1カ月で大体きまっちゃいますもん。最初が肝心ですからねー」
「まあ、分かったわ。何か、私の責任もあるらしいから。よし、私が責任を持って、あなたを助けてあげるわ」
え、どうするつもりだろ。
星月は教室の引き出しから一枚の紙を取り出した。
部活動入部届け。
「…入部届け?」
「そ、この部に入りなさいよ。そうすればぼっちの君も晴れて人とコミュニケーションとれるわよ」
「お、それはいい。そうすれば賭けは俺の勝ちだな」
「むはー、山岡に、学食1週間分かー。あたし、貧乏学生なのにー。まっ、でも、後輩が出来るのは悪くない」
ふざけるな、誰が入るか!と言おうとしたが、確かに、この機会を逃したら本当のぼっち高校生活のスタートだ。
それは避けたい。
ならば、入らなければならないのか。今更他の部活動には入りづらい。
「…分かりました。探検部入部します」
「よし、良い返事ね。あたしは星月清夏」
「俺は山岡謙吾だ。メガネをかけているが、基本馬鹿だ」
「あたしは、上原結衣でーす。絶賛マネーが欲しいでーす」
こうして探検部に入った僕は、今にして思えば、やめておくべきだったと強く思う。何故なら、この部活道はしゃれではなかったからだ。
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