第30章:ドニエプルへ
[1] 第3次ロストフ攻防戦
スターリングラードの西方では、南西部正面軍と南部正面軍(1月1日、スターリングラード正面軍から改称)がそれぞれ第1親衛軍・第3親衛軍、第2親衛軍・第51軍を先頭に、ドン軍集団をロストフへ圧迫していった。目標はドン軍集団を壊滅させ、カフカス地方から撤退中のA軍集団(クライスト元帥)と分断することであった。
第6軍の両翼で同盟国軍の防衛線が破られたことで、東部戦線の南翼は一時的に前線が消滅した状況になっていた。ソ連軍の戦車部隊は南西に突進を続けており、もしロストフに先に到着した場合、第1装甲軍(マッケンゼン大将)と第17軍(ルオフ上級大将)も失うことになる。マンシュタインの課題はA軍集団をカフカスから脱出させるためにロストフを死守することだった。
ロストフを防衛するため、フレッター=ピコ支隊(第3山岳師団・第304歩兵師団、第7・第19装甲師団)とホリト支隊(第48装甲軍団と「警戒大隊」)によってチル河の防衛線を保持しようとした。しかし、両支隊の側面は広く開いていた。
12月24日、南西部正面軍と南部正面軍は新たに第5戦車軍、第5打撃軍、第28軍を前線に投入した。新手のソ連軍はドイツ軍の支隊を南北翼から圧迫していった。
1月3日、ドイツ軍の支隊はヒトラーの「死守命令」にも関わらず、ドネツ河まで退却せざるを得なくなった。その間に、第3親衛機械化軍団と第4機械化軍団がドン渓谷をロストフに向かって進撃した。
1月7日、ドン軍集団はⅥ号重戦車「ティーガー」を装備した第503重戦車大隊をジモフニキに送り込んだ。SS装甲擲弾兵師団「ヴィーキンク」(シュタイナー大将)の撤退を支援することが目的だった。第503重戦車大隊の「ティーガー」は突進してくるソ連軍のT34を次々と撃破した。だが同大隊は訓練半ばで投入されたため、20両の「ティーガー」が動けなくなって戦場に放置された。この時、ソ連軍もT34を18両放棄していた。
この時、ソ連軍の消耗と補給不足が深刻な状況に陥っていた。特に「天王星」作戦以降、休む間もなく進撃を続けていた南部正面軍の消耗は激しく、1月下旬で戦車の稼働台数は数十両にまで落ち込んでいた。貧弱な兵站能力も限界が近づいており、先頭を進む戦車部隊では燃料や弾薬の不足が表面化し始めていた。
1月20日、南部正面軍はロストフへの総攻撃を開始した。第2親衛軍の第3親衛戦車軍団(ロトミストロフ少将)がマヌィチスカヤ付近でマヌィチ河を渡り、バタイスクの重要な橋に進撃した。その先鋒はエゴロフ大佐率いる機動集団だった。その南翼では、第51軍が第3親衛機械化軍団(ヴォリスキー少将)をバタイスクに差し向けた。
マンシュタインはソ連軍のマヌィチ河に築いた橋頭堡を崩そうと考えた。前線に第11装甲師団(バルク中将)、第16自動車化歩兵師団(シュヴェーリン少将)、第503重戦車大隊が送り込まれた。すでに同月15日から、第16自動車化歩兵師団の一部はマヌィチスカヤに近いサモドゥロフカを攻撃していた。
1月22日、第11装甲師団はアクサススカヤでドン河を越えた。ドン軍集団の装甲部隊とエゴロフ機動集団はレーニン国営農場で衝突した。ソ連軍の攻撃は何度も撃退され、戦車の大部分を失ったエゴロフは撤退せざるを得なくなった。
1月23日、第16自動車化歩兵師団も第11装甲師団に続いてマヌィチスカヤで攻勢に乗り出した。3日間に及ぶ戦闘の末、第3親衛戦車軍団は補給不足も重なって大きな損害を出して後退した。ロトミストロフは第2親衛軍司令部に打電した。
「部隊はこの事態と重大な損害のため、積極的戦闘行為は不可能であります」
時を同じくして、典型的な冬が到来する。独ソ両軍の作戦行動は制限を受けることになった。1月24日、雪解けが道路を泥濘に変えてしまう。2日後には気温が零下15度まで低下したために戦場一帯は氷の世界となった。翌27日から3日間に渡る降雪が始まった。
ロストフへの進撃が思うように進展しないことに業を煮やしたスターリンは南部正面軍司令官エレメンコ大将を更迭する。後任の同正面軍司令官に第2親衛軍司令官マリノフスキー中将を昇格させたが、司令官の交代で戦局が変化することは無かった。南部正面軍がロストフの奪回を完了したのは2月14日のことだった。
第1装甲軍は1週間前の2月7日にアゾフ海北岸への脱出を完了していた。第17軍は北カフカス正面軍(テュレーネフ上級大将)の追撃をかわして西の黒海に突き出したクバン半島の橋頭保に撤退を果たしていた。
このようにソ連軍は1942年度の冬季戦も、去年の冬季戦と似たような結果で終わりを迎えた。すなわち、わずかな資源しかないのに、あまりに楽観的な戦略的攻勢を立てて、途中で疲弊して目標を達成できなくなってしまうのである。このような事態は1月から3月までの一連の攻勢まで続いた。
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