[4] 「閃光(イスクラ)」作戦

 東部戦線の最北端では、レニングラード市に対する包囲の解放は常に高い優先順位に定められていた。ソ連軍の北方軍集団(キュヒラー元帥)に対する攻勢は1942年の間に幾度も行われたが、全て失敗に終わっていた。

 1942年6月に一連の反撃の失敗により、レニングラード正面軍司令官ホジン中将は更迭された。後任の同正面軍司令官にはモスクワ前面の反攻で第5軍司令官を務めたゴーヴォロフ中将が就任した。

 1942年11月、モスクワの「最高司令部」はレニングラード正面軍司令部に対して新しい反攻作戦の準備を行うよう命じた。作戦の原案は12月に「最高司令部」によって承認され、秘匿名称は「閃光イスクラ」とされた。

「閃光」作戦の概要は、ヴォルホフ正面軍(メレツコフ上級大将)とレニングラード正面軍(ゴーヴォロフ中将)がラドガ湖の南にある2個正面軍の間に空いた16キロの回廊を東西翼から突破して交通の要衝シュリッセルブルクを奪回し、レニングラードの包囲を解放することだった。作戦開始日は1943年1月1日を予定していた。だがネヴァ湖の凍結が遅れて兵站機能に支障をきたしたため、同月12日まで延期された。

「最高司令部」は次のような訓示を行い、作戦の調整のために最高司令官代理ジューコフ上級大将をレニングラード正面軍司令部に派遣した。

「ヴォルホフ正面軍とレニングラード正面軍は協同してリプカ、ガイトロヴォ、ドブロフカ、シュリッセルブルクの戦区でドイツ軍を撃退し、レニングラードの封鎖を解放させよ。1943年1月の終わりまでに当作戦を終了させよ」

 1月12日、「火花」作戦は開始された。第18軍(リンデマン上級大将)の東西翼から4500門以上の火砲とカチューシャ・ロケット砲によって2時間以上に渡る支援砲撃が行われた。激しい砲撃の矢面に立たされた第26軍団(ライザー中将)の2個歩兵師団(第170・第227)はこれまでのソ連軍の攻撃と違うものを感じ取っていた。

 西翼のレニングラード正面軍は第67軍(ドゥハーノフ少将)がネヴァ河畔のマリノ橋頭保から進出し、東翼のヴォルホフ正面軍からは第2打撃軍(ロマノフスキー中将)がラドガ湖畔リプカからガイトロヴォまでの幅13キロの狭い戦区から押し寄せた。

 ソ連軍の目標がレニングラードへの陸上連絡地であるシュリッセルブルクを奪回し、その南端を走るキーロフ鉄道まで進出することである。その点を見抜いた第18軍司令官リンデマン上級大将は第96歩兵師団(ネーデルヒェン少将)と新型のⅥ号重戦車「ティーガー」を増援として送った。しかし、第96歩兵師団は行動不能な湿地帯に進軍を阻まれ、思うような協同作戦が行えぬまま撤退を余儀なくされた。

 1月18日、第67軍の第123狙撃師団と第2打撃軍の第372狙撃師団は労働者住宅1号の付近で合流することに成功した。この合流により、第26軍団は南北に部隊が分断されてしまった。第61歩兵師団(ヒューナー中将)がラドガ湖畔に閉じ込められた第227歩兵師団(スコッティ中将)の脱出を支援することになる。2個歩兵師団は支隊として運用されることになった。

 ソ連軍は労働者住宅5号の占領に成功する。支隊が敵に包囲される危機が生じたため、ヒューナーは火砲と重装備の放棄を命じる。1月19日から20日にかけて、ヒューナー支隊は森林地帯を抜けてシニャヴィノに脱出した。

 1月30日、「火花」作戦は終了した。ドイツ軍によるレニングラードの封鎖はついに打破されたのである。レニングラード市内に住むある詩人は次の言葉を書き記した。

「私たちは長い間、この日を待ち望んでいた」

 国家防衛委員会は1月18日付けで、捕獲した回廊を通じて本土とレニングラードを結ぶ全長約30キロの鉄道の建設計画を発令した。3週間足らずの工事で新たな鉄道が敷かれ、最初の食糧列車が2月6日に物資を提供し始めた。しかしこのルートもまたラドガ湖上の「命の道」と同様、前線からわずか8キロしか離れておらず、ドイツ軍の攻撃を受けやすかった。

 ソ連軍は新たな攻勢―「北極星ポリャルナヤ・ズヴェズダ」作戦を発動する。これはシニャヴィノに向かって南下してラドガ湖畔の橋頭堡を拡大する作戦だった。第18軍はただちに4個歩兵師団(第61・第96・第132・SS警察)を陣地に投入した。ソ連軍は労働者住宅の一帯を占領したが、それ以上は強化された陣地に阻止されて南に進撃することができなかった。「北極星」作戦は結果として失敗に終わってしまった。

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