[2] 救援軍の創設

 ヒトラーはロシア南部全域のドイツ軍が危険にさらされている事実を認めようとはしなかったが、スターリングラードに対するソ連軍の脅威に対処する必要に迫られた。

 11月21日、ヒトラーはドン軍集団の創設を決定し、ドン軍集団司令官に第11軍司令官マンシュタイン元帥を任命した。陸軍総司令部とB軍集団は他の戦域から可能な限り部隊を引き抜いて、ドン軍集団に配置させた。

 ドン軍集団司令官に任命されたマンシュタインはただちに参謀たちを引き連れ、第11軍司令部が置かれたデミヤンスクから列車で南方に向かった。途中、スモレンスクの南で中央軍集団司令官クルーゲ元帥と列車内で会談し、ロシア南部の戦況について非公式に説明を受けた。クルーゲはマンシュタインにひとつ忠告した。

「ぜひ注意してほしい。前年の冬の危機を乗り越えたのは、ひとえに自分個人の手腕で、我が軍兵士の士気と全軍の懸命な働きのおかげではないと、総統は考えている」

 11月24日、マンシュタインはようやくB軍集団司令部に到着した。B軍集団司令官ヴァイクス上級大将から戦況の説明を受けた後、マンシュタインはドン軍集団司令部をロストフ近郊のノヴォチェルカスクに設置した。マンシュタインの最初の仕事は、ルーマニア軍の崩壊によって失われたドン河の防衛線を再構築することだった。

 マンシュタインにとって幸いなことに、ルーマニア第3軍に派遣されていたドイツ軍のヴェンク大佐がすでに、第6軍の背後に開いた大穴を埋めようと精力的な活動を行っていた。ヴェンクは戦線後方にいた鉄道作業員や休暇からの帰還兵、空軍基地の地上要員などをかき集め、警戒大隊をいくつも作り上げた。応急編成された警戒大隊はチル河の南岸に送り込まれ、チル河流域に薄い防衛線を形成した。

 12月5日、マンシュタインはルーマニア第3軍の戦区で新編されたホリト支隊にチル河流域の戦線を確保するよう命じた。チル河の前線を破られた場合、第6軍に対する救出作戦そのものを断念せざるを得なくなる。マンシュタインはこのことを懸念していた。

 ホリト支隊は第48装甲軍団の第11装甲師団(バルク中将)や第336歩兵師団(ルフト少将)などを駆使して、第1戦車軍団と第79国営農場の一帯で激しい戦闘を繰り広げ、12月12日までにはソ連軍の攻撃を排除することに成功した。ホリト支隊がチル河の戦線を確保したことにより、マンシュタインは救出作戦の主力となる装甲兵力の編成に専念できるようになった。

 孤立地帯上空を活発に飛び回っていたにも関わらず、ソ連軍は自分たちが包囲した敵兵力の大きさを未だ認識していなかった。ドン正面軍司令部の情報部は「天王星」作戦により包囲した兵員数を8万6000人と見積もっていた。実際、包囲された敵の総兵力(同盟国軍を含む)はほぼ3・5倍の約29万人だったのである。

「天王星」作戦が順調に進展していることを確認したスターリンは第6軍を包囲した後、ただちに次の決定的打撃を与えるのを心待ちにしていた。

 11月26日、ヴァシレフスキーは南西部正面軍とヴォロネジ正面軍の司令部と協議した結果を踏まえて、スターリンに「土星サトゥルン」作戦の計画書を提出した。

 冬季戦の第2段階となる「土星」作戦は野心的な内容だった。ヴォロネジ正面軍と南西部正面軍がルーマニア第3軍の北西に展開するイタリア第8軍(ガリボリディ大将)の戦線を突破し、戦車部隊をロストフまで進撃させ、カフカス地方にA軍集団(クライスト上級大将)を閉じ込めるというものだった。作戦開始日は12月10日とされた。

 しかし、ドン河西岸に残っていた兵力を収容した第6軍がスターリングラードの西で南北約40キロ、東西約60キロの全周防御陣地を構築したことが判明する。ソ連軍はこの防御陣の殲滅にさらなる時間と兵力を割かなければならなくなった。

 11月28日、スターリンは敵の意図を判断するようジューコフに求める。ジューコフはドイツ軍が包囲された第6軍の救出作戦を仕掛けてくるのは間違いなく、ニジニ・チルスカヤおよびコテリニコヴォ方面から包囲突破を試みるであろうという判断を示した。

 スターリンに報告した後、ジューコフとヴァシレフスキーはある点で意見の一致を見た。すなわちドイツ軍が救援作戦に乗り出した際は、おそらく「土星」作戦に変更を行わねばならないだろうという点である。

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