第2話

 ミア、ムイ、メウの三人が、この小さな島で一緒に暮らし始めたのは、およそ一年前のことになる。


 三人がこの島へやったきたのは、蛇使いの修行のためだ。


 ミア、ムイ、メウは、三人とも、蛇使いとしての優れた才能をもつ少女だ。特にミアは、蛇使いの一族として有名なハマハズの血筋を引く者であり、生まれながらにして蛇を操る能力に長けていた。


 蛇使いとしての素質を見出されたミア、ムイ、メウの三人は、周囲の人々の勧めで、高名な蛇使いの師匠のもとで、厳しい修行を積むことになった。師匠から叩き込まれた技術のために、三人がもとからもっていた才能は、飛躍的に磨かれていった。


 三人は、師匠の教えを着実に自分のものにしてゆき、ついに、修行は最終段階へと突入した。


 蛇使いとなるための最後の修行は、三人だけで、無人島で生活するというものだった。


 この修行の特徴は、島に蛇を持ち込んではならないということだった。究極の蛇使いに、もはや蛇は不要だ。蛇とは、生命力を自在に操れるようになるための手段にすぎない。ほんとうの蛇使いとは、蛇などいなくとも、なお蛇使いとしての能力を発揮できるべき存在なのだ。


 蛇を用いずに、過酷な環境下で生き延びることができれば、蛇使いとして身につけるべきものはすべて身につけたことが保証されるというわけだ。


 修行の場となる無人島は、温暖で、比較的すごしやすい環境と言えた。しかし、この島で、三人だけで生き抜くのは、想像以上に過酷だった。


 飲み水の確保、食料の獲得、雨風を凌ぐための小屋作り、島に生息する獣から身を守るための工夫、すべてが重労働だった。物事を成し遂げるのにはいつも蛇を使うことが癖になっていた三人には、どれもが実にたいへんな仕事だった。


 誰か、自分たちを律してくれる人がいなければ、とうてい、この修行を乗り切ることはできそうになかった。


 こうして、ミア、ムイ、メウの三人は、いつしか家族を形作ることとなったのだった。


 家族を作ろうと誰かが提案したわけではない。自然と、家族が形成されたのだ。家族とは、最小の共同体であった。


 最小の共同体の形成によって、三人は相互に律し合うことができるようになり、生活はいちだんと楽になった。


 どちらかというと運動が苦手で、家事が得意なミアが母となり、泳ぎが得意なムイが父となった。残るメウは、二人の間の子供ということになった。メウには愛嬌があったから、子供の役にはぴったりだった。


 全員が同い年の家族など、およそ尋常のこととは思われないかもしれない。しかし、ミア、ムイ、メウの三人にとっては、これが一番しっくりくる生きかただったのだ。


 実際、たった三人だけで、一年もの間、無人島での生活を続けていれば、何がふつうのことなのかという常識がまるきり変化してしまうのが、むしろとうぜんのことなのかもしれなかった。


 ミア、ムイ、メウの三人は、今や無人島での生活にも慣れ、家族としての団結力もいっそう増してきていた。


 三人は、家族として、いつまでも仲睦まじく暮らしていけるかに見えた。


 しかし、そんな平和な時間は、長くは続かなかった。


 メウに、反抗期がやってきたのだ。

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