はだかの蝶と蛇使い
第1話
ある小さな島に、仲のよい夫婦があった。妻のほうはミア、夫のほうはムイという。ミアとムイの間には、メウという名の一人娘がいた。
島の住民は、ミア、ムイ、メウの三人しかいなかった。
島での生活は、たいへんなことも多かった。何しろ、三人ですべてをこなさなければならない。食べ物の自給自足はもちろんのこと、家を作るのも、病気を治すのも、全部三人だけでやるのだ。でも、三人は、そんな生活をそれなりに楽しんでもいた。
ある日のこと。メウは、いつもより早く目が覚めた。お母さんのミアはもう起きていて、外で朝御飯の支度をしていた。お父さんのムイは、まだいびきをかいて眠っている。
朝御飯ができるまでは、しばらく時間がかかりそうだった。そこでメウは、いつも頑張っているお父さんのために、お守りを作ることにした。
メウは、お父さんもお母さんも大好きだ。けれども、お母さんは小言が多くて、少しうっとうしいときもないではない。しかしお父さんは違った。お父さんのムイは、いつも優しいし頼りがいがある。ムイは、海に入って遠くまで泳ぎ、素潜りして晩御飯の魚を獲ってきてくれる。とっても疲れる仕事だろう。疲れるだけではない。海には、毒を持った生き物がいたりするから、危険な仕事でもあった。それでもムイは家族のために、毎日のように海に潜る。メウはそんなムイを尊敬していた。
メウはさっそく、木の実を拾い集めると、紐を通し、首から下げられるようにした。これが、古くから島に伝わるお守りの作りかただった。
お守りが完成するのと、朝御飯ができるのが同時だった。
「メウ、お父さんを起こしてきてちょうだい」
「うん、そうする」
メウは家に入り、ムイの身体を揺さぶった。
「お父さん! 起きて! もう朝だよ!」
「うーん、まだ眠いよ、母さん……」
メウは、クスクスクスと笑ってしまった。夢うつつの状態でメウの声を聞いたムイは、その声をミアのものだと勘違いしてしまったようだ。
ムイは、やがて目をこすってむくりと起き上がると、ようやくそこにいるのがメウであると気づいた。「おや、てっきり母さんかと思ったら」
「おはよう、お父さん。お父さんったら、今日はずいぶんねぼすけさんね」
「おはよう、メウ。どうしたんだい今日は。メウにしては、やけに早起きじゃないか」
「そうなの。別に、用事があったわけじゃないのよ。だけど、たまたま早く目が覚めちゃったから、そのまま起きちゃった」
「偉いぞ、メウ。何もない日に早起きするなんて」
「でね、でね、せっかく早起きしたから、お父さんのために、これを作ったの」
メウはムイに、手作りのお守りを渡した。
「これ、メウが一人で作ったのかい? 嬉しいなあ。とっても素敵なお守りだよ。ありがとう」
ムイは、にっこりと笑って、メウの頭を数回撫でてくれた。メウはすっかり満たされた気分になった。
それから、メウとムイは家の外に出た。朝御飯のいい匂いがして、メウの食欲がそそられた。
「メウは、ずいぶん大人になったなあ。声とか、雰囲気とかが、だんだん母さんに似てきたような気がするよ」朝御飯を口に運びながら、ムイが言った。
「そうかなあ」
「そうだとも」
「でも、あたしは、お母さんよりも、お父さんみたいになりたいな。力持ちで、魚を捕るのがうまくて、かっこいいんだもん。あたしも、大きくなったら、お父さんみたいになれるかな」
「なれるさ。大きくなんかならなくても、なれる」
「ほんとうに?」
「ほんとうだとも。だって、お父さんとメウは同い歳じゃないか。お父さんにできることは、今のメウにだって、きっとできる」
「そうだったね、お父さん。あたし、がんばるよ」
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