第5話 鬼道

 百襲媛は白馬を飛ばしていた。

 背中には朱色の強弓を背負い、白装束に紅い袴という巫女姿の戦支度である。もちろん、下にはクサビ帷子かたびらを着込んでいる。


 鬼ノ城の戦いから数年、一度も着ることが無かった戦装束いくさしょうぞくを再び纏う決断は一瞬だった。

 だが、鬼ノ城の戦いを、あれほどの大乱をほどんど身ひとつで収めた、あの男はもういない。

 百襲媛には今回の反乱を上手く収める手立てを思いつけなかった。


「……あはっ!」


 だが、天啓のような閃きが彼女に生まれ、おもわず笑みがこぼれそうになる。

 鬼道の中でも禁術に属する「死人舞いの術」の使用は、さすがの彼女にも若干、ためらいがあった。

 だが、考えようによっては、父子の対面や娘との再会も果たせて、永年の懸案も解消できるかもしれない。


「百襲媛、何か良からぬことを考えているな?」

 

 歴戦の勇者である稚武彦は、馬を並走させながら、察しよく大和朝廷最強の戦巫女に釘を刺す。


 彼の背後には100騎ほどの騎馬隊が続いている。いずれも鉄製の鎧を着込んでいたが、機動力重視で、比較的軽装の騎馬隊であった。

 鬼ノ城への山道は狭く、西門の攻撃隊はそれが限界で、背後の北門、東門にそれぞれ200騎づつの騎馬隊を配していた。

 南門は特殊部隊を編成して攻略する予定である。

 讃岐の猿王配下の猿飛率いる忍者部隊を編成していた。その名の通り、ましらの如き体術のもち主ばかりだ。


「まあ、この非常時に背に腹はかえられない。力の出し惜しみもできないわ」


「止めても無駄のようだが」


 稚武彦は自分の姉でもある百襲媛の気性を知りつくしていた。


「嘘でしょ!」

 

 百襲媛の白馬が鬼ノ城への山道で、突如、止まった。

 

「まるで、死人にでも会ったような顔だな」

 

 右目に眼帯をつけた、頼もしくも懐かしい男が振り返ってそこにいた。

 黒いマントにクサビ帷子をまとい、背中に鉄棒を背負い、銀色の鉄仮面をつけている。


「まさか、温羅ウラなのか?」

 

 さすがの稚武彦も驚愕している。 


「まあ、そんなところだ」


 鉄仮面で素顔は見えぬが、その声音こわねは温羅そのものであった。


「さて、わしはどこから攻めようか。稚武彦?」


 温羅はまるで散歩にでも行くような感じで尋ねてくる。

 

「もちろん、正面でお願い。私は朱弓で援護するわ」


 呆気にとられてる稚武彦に代わり、百襲媛が指示をだす。


「助かる」

 

 温羅は指笛を吹いて大鷹を呼びよせ、身軽に飛び移ると、一緒に空に舞い上がった。

 道術の式神であろうが、いつ見ても見事な体捌きである。

 

「さて、面白くなってきたわ。我が子はどう対応するか楽しみだわ」


 大和朝廷では大将軍とも呼ばれる百襲媛は、にやりと笑って、朱弓を引くと最初の一撃を放った。

 朱弓は温羅の大鷹が降りる先の物見の角楼かくろうの兵たち数人を根こそぎ倒してしまった。

 無人の角楼の上にふわりと降り立った。

 伝説の鬼神の登場に、兵たちは恐怖で動けなくなった。








(あとがき)


 1000文字と短いですが、久々に小説を更新しました。

 エッセイばかり更新せずに、小説も更新しないとね。

 ノベルアッププラスというホビージャパンのWeb小説投稿サイトメインに投稿していますが、ここは毎日ログインする度に1000ポイントもらえて、それで小説作品を応援できたりします。


 結構、資料も読み込んでいて、面白い作品です。


殺戮ジパング ~元寇・九州本土防衛戦~ 中七七三 https://novelup.plus/story/651203344/776196478

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鬼媛烈風伝 坂崎文明 @s_f

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