4月18日 晴れていても雨

 かぐや姫は竹から生まれた。

 その稀有な生まれ方に古代のファンタジー感を見る。


 あかん、やらかしてもうた!

 と、女は魔が差したのか、常にルナティックな世界に生まれた影響か、常識では考えられないような失態をしていた。

 気がつけば竹の筒の中に押し込まれ、眼前に光る青い星へと発射され、上手い具合に竹林へと突き刺さることに成功した。

 途中、大気圏に突入した時に燃えカスになりそうなほど熱かった。

 きっと、これが月の国の斬新な処刑方法だったのだろう。

 地球に投げ捨てれば落下による空気摩擦によって高温に熱せられ、星屑として死ぬことができるのだ。


 しかし、あろうことか、稀に燃え尽きることなく地球へと到達し、新たな人生を送る者がいた。


 それが、この、かぐや姫やで!

 うちは多分近畿地方におるんやけど、地面にぶっ刺さったまんま竹の中から出ることがでけへんようになったんや。


 そんなうちを助けてくれたんは、竹取のおじい。

 あー、どうせなら竹取やない、貴族っちゅうえらいごっつい身分に拾われたかったわ。

 まぁ、背に腹はかえられへん。

 しゃあないから竹ん中パンッパンに金銀財宝詰め込んだるわ。

 したらこないじーさんもごっつい身分になるやろ。

 ほんで、えらいべっぴんなうちの噂を聞きつけた男どもがうちにむらがりあーんなことやこーんなことで、終いには帝っちゅうこの国で1番の権力者の求婚を……。


 しかし、現実は甘くない。

 この時代の身分制度ははっきりとしている。

 竹取はあくまで竹取であり、年貢を納め、馬車馬の如く働かされている農民よりもランクは下である。

 税を納めぬ者に自由な権利などありはしない!

 そもそも竹取とはなんなのだ。

 竹を加工して籠を作って売る伝統工芸家かなにかだろうか。

 人口も少なく、そもそも籠など滅多に壊れるものではない。

 多少穴があいても補修は可能なのだ。


 そんな籠を一日にいくつ売れるのだろう。


 竹取のおじいは考えた。


 すまぬ――我が家では幼子など養う財も糧もないのだ。

 このような金銀財宝を得たとて、儂のような得体の知れぬ老人から買い受けてくださる貴族もなし。

 宝の持ち腐れというもの。

 何……? 貴族か帝と結婚!?

 冗談も身長だけにしなされ。

 そんな身の丈では……その……男女のまぐ……ゴホン!

 とにかく、儂のような非納税者の家では貴族どころか農民とでさえ結婚は叶いませぬ!

 どうか達者に暮らしてくだされ。


 そういうと、3寸ばかりのかぐや姫になけなしの干し肉のひと欠片を手渡して去っていった――。


 こうしてかぐや姫は、是が非でも玉の輿に乗るために、やがては元の世界に戻り月の帝へ復讐を果たすべく動き出すのであった。



 ――与えられた罰が星流しで人生どん底から這い上がることを余儀なくされた件



 男は、窓の外を眺めながら、ぼんやりとそんなことを考えるのであった。

 そんなアンチテーゼな物語など、自分に仕上げられるはずがない……。

 男は心の原稿用紙をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱へと放り投げる。

 ゴミ箱に入らず、紙くずは床へと転がった。


 今日は清々しい快晴だ。

 こんな空ではいつ罪を犯して星流しにされた女が降ってくるかもしれない。

 うん、今日も雨なんだ。

 日本中どこかで雨が降っているなら、ここも雨が降っているということにしてもいいだろう。

 雨の日は何事も捗らないのだ。

 今日も執筆は進まなかった。

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