第四章
糸が切れたようにその場に
息せき切って飛び出した
化け猫が怯んだ隙をついて玻璃を抱き上げ、
未だぐったりと動かない玻璃を床に下ろそうとして、その体の軽さに面食らう。
自分より小柄だから、というだけでは済まない。そもそも意識を失った人間というものはそれなりに重量がある。同性の、ましてや軍人を片腕で拾い上げられるのは明らかにおかしいだろう。
まさか、と思うが、今確かめている時間はない。
玻璃の周りに結界陣を展開し、化け猫へと向き直る。
「おのれ……
「……そりゃこっちの台詞だ。
顔面に軍刀が刺さったまま血走った眼でこちらを睨む化け猫から目を離さず、橙介は月光に照らされた自らの影を指先で撫でる。
「この落とし前は、きっちりつけてもらうぞ」
指が触れた先から影が仄蒼い光を放ち、橙介の周りで渦を巻く。
「
橙介自身の声と重なるように男とも女ともつかない禍々しい声が祝詞を唱える。祝詞が紡がれていくごとに轟々と大気が吠え、橙介の影は急速に個を
それは巨狼のように、長大な角をもつ
これこそが咎憑、柊城 橙介が『影鬼』と呼ばれる
黒を喰わせて影に住まわす、それこそは――。
「神に連なる咎……!?そんな、神が矮小な人間如きに手を貸す筈が……」
先程までの怒りが一転、恐怖に
「喰い殺せ、
怒気を孕んだ声が弾け、影が化け猫に飛び掛かる。
断末魔を上げる間も無い。一瞬の
◆◆◆
まだ夜も明けきらぬ早朝、
すぐに開いた扉の先に立っていた
落ち着いた色の
微かに聞こえる寝息に心底安堵する。玻璃はまだ生きている。生きているのだ。その事実が今の橙介にとって唯一の心の支えだった。
数分後、慌ただしく部屋に飛び込んできた医者らしき女に面会謝絶だと怒鳴りつけられ廊下に蹴り出されたが、動く気力も無くそのまま廊下の端で
玻璃は無事だろうか。あの綺麗な顔に傷は残ってしまわないだろうか。それよりも、自身の立てた予測が正しいならば玻璃は……。
橙介の頭の中をぐるぐると思考が回り、
相当疲れていたのだろうか、数秒も経たない内に橙介はふつりと眠りに落ちた。
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