無知
三尾シア
1.あの頃は
「ピピピピピピ…」
けたたましくアラームがなり、寝ぼけた手つきで彼女はアラームを止める。
部屋のドアを開けると廊下の冷たい空気が部屋に入り込み不快な目覚めを届ける。窓から見える空はまだ暗く足どりは重くなる一方だ。洗面所の蛇口を下げてお湯が出るのも待たずに顔を洗いはじめる。そうでもしないと″彼″が帰って来てしまうのだ。顔を洗い拭いている最中に1階にある玄関から物音が聞こえる。彼女はそれまでしていた全てを止め素早くそして、まだ寝ている母を起こさぬ様に足音を殺して1階へ向かう。
「おかえりなさい。」彼女はかしこまって言う。
「あぁ、ただいま」そっけなく彼は言った。たったそれだけの用が済んだ彼女は準備の続きを再開しようと2階へ向おうとすると、
「今日はどうするつもりなんだ」と詰問する様に彼は彼女に問う。
「今日は午前中の部活が終わったらお昼は勉強をしようと思います。」彼には敬語を使わなくてはならない。暗黙の了解というもの。
「しっかりやっとるんだろうな。それぐらいはやれよ。」まったく無駄な駄目押しをして彼は寝室へ入っていった。それを見届け彼女はため息まじりに2階へ行き用意を手早くすませ、朝練よりもだいぶ早く家を出る。彼が再び起きてくる前に。ようやく明るくなり始めた空は凛と冷たい空気と共に彼女をひと時の自由へ解き放つ。
そして彼女は朝練の待ち合わせの時間までの時間を路上で本を読み潰すのだ。それが日課。
これが私の中学時代だった。
これが私の3番目の″父″。
無知 三尾シア @miacia
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