第13話 ドライブ2
ETCゲートを通り、本線に合流しようと出るけど、ビュンビュン後続車が出て来て怖い。これが嫌だから高速って乗りたくなかったのに。
「何やってんだ! 今だ、入れーーー!」
先生の怒鳴り声が響く。私はアクセルを踏み込み本線にようやく入った。後続車にぶつかりそうになったが、気にしない。気にしない。
「アクセルもっと踏み込め」
「80キロも出てますけど」
「バカかお前は。ベンツだぞ。もっと出るだろ。追い越し車線に行け」
追い越し車線なんてとんでもない! 絶対に嫌だ。嫌だ。嫌だ。
突っぱねていると、先生が手を出して来た。そしてハンドルを右に切ろうとする。
「やめて下さい!! 死にたいんですか!」
後ろから来た車にぶつかりそうになった。
「お前が俺の言う事を聞かないからだ。ほら、右に行け、右だ」
先生がまたハンドルに手を出そうとする。
「もう、わかりましたよ。行けばいいんでしょ!」
アクセルを踏み込み、追い越し車線に入った。そして速度をぐんぐん上げていく。100キロ、110キロ、120キロ、130キロ……キャー怖い。神様助けてー。もう嫌だ―。
「ガリ子いい調子だぞ。ベイブリッジまで来たぞ」
車は丁度ベイブリッジの白いH型の橋の入り口を通り抜けた。ハンドルを握る手はすっかり汗まみれだ。緊張でお腹が痛い。今すぐ高速を降りたいけど、先生が許してくれない。こうなったら絶対に5時前に川崎についてやる。さらにアクセルを踏み込んだ。速度が上がる。140キロ、150キロ、160キロ……。まだまだ走りに余裕がある。さすがベンツ。
「お、おい。ちょっと出し過ぎだ」
先生が不安そうに私を見る。
「急いでるんですから仕方ないです」
「そこまで急がなくても」
「もっと上げますよ。260キロまで出るみたいですからね」
私の中で常識的な何かが外れた。160キロで走ってても怖いとは思わなくなる。
「いきますよ」
170キロ、180キロ、190キロ、200キロ! ははははは。ははははは。アドレナリンが上がる。はははは。ははははは。ははははは。笑いが止まらなくなる。もう可笑しくて可笑しくて仕方ない。
「ガリ子、笑いながら運転するのはやめろ! 頼む、やめてくれー」
先生の怯えた声が車内に響く。
滅茶苦茶気持ちいい! こんなに愉快な事はない。
「ガリ子。スピード落とせ。俺はまだ死にたくないーー!」
先生の悲鳴を聞きながら200キロで高速を走り抜けた。後続車がぐんぐん見えなくなって、ぶっちぎりの先頭だ。なんて気持ちいいの。こんな世界があったなんて知らなかった。
目的地にたどり着くと先生がぐったりした表情で睨んでくる。
「お前は俺を殺す気か」
「5時前に着きましたよ」
ただ今の時刻4時50分。10分も余裕がある。どうだと言わんばかりの態度で先生を見た。
先生がため息をついた。
「確かに5時前だ。でもな、あんな走り方したら危ないだろ!」
追い越し車線に行かせようと横からハンドルを操作しようとしたくせに、危ないなんてよくも言えたものだ。
「文句があるなら、先生が運転すればいいじゃないですか。それか、タクシーでも良かったんじゃないんですか?」
先生が気まずそうに頬をかいた。
「タクシーを呼んでいる時間がなかったんだ。急にお迎えを頼まれたから」
頼まれた? お迎え? それってつまり、横暴な先生を必死にさせる程の人がこの世にいるって事?
一体どこの誰?
というか誰を迎えに……?
目の前にはピンク色の二階建ての建物があり、看板には『さくら幼稚園』とあった。
「ここは幼稚園ですか?」
「それ以外の何に見えるって言うんだ。当たり前の事を聞くな。行くぞ。お迎えは5時までなんだ」
先生が車を降りる。私も続いて降りた。
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