もしも世界が本当に綺麗だったならば

歌音柚希

もしも世界が本当に綺麗だったならば

この世界はとても綺麗だ。

一切不純物が存在しない。

嘘偽りは存在を許されない。

犯罪は死をもって償え。

悪の芽など生かしてはおけない。

他人に暴言を吐くような奴に金をかけるな。


汚れは徹底的に消した。


全てが全てクリーン。

空気の隅から隅まで、人間の隅から隅まで、絶対に有害なものがない。

完璧な美しさ。異常な素晴らしさ。


異常を超えた、国全体の潔癖症。


だから、この欠点のない美しさ世界を崩すモノは即刻消える。

汚れなき世界。

悪の意識が目覚めた瞬間、その人間―もはや人間ではない―は国という権力に消される。死をもって償うのだ、己の欠陥を。


どこまでも突き詰め、やっと保つことができた

『究極の綺麗な世界』


人々はそれを狂気的だと感じない。

人々はこの国が狂っていると感じられない。

なぜならここしか知らないから。

究極の綺麗な世界は、誰も彼もがほぼ幸せな箱庭だ。


故に人々は疑問を抱かない。


世界を汚したと糾弾され、国に処刑されるニンゲンがいなくならないことについて。


一切、何も、思わない。


他人を流血させただけで死ぬニンゲンがいることに対しても、ほんの少しも感情を抱かない。笑っている。


「あいつは国を汚した。だから死ぬ。これは然るべき死だ。許される死だ」


国の美しさのためという大義名分、そして司法という胡散臭いものの下では、


罪人が問答無用で命を奪われることもまた正義、なのである。



アァ、洗脳されし憐れな国民共よ……。



今度は人が炙られるらしい。

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もしも世界が本当に綺麗だったならば 歌音柚希 @utaneyuki

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