4

「どうした? さっさとその橋を渡ってくればいいだろう!」

 橋の向こうでケン太が笑いながら叫んでいた。

 一歩を踏み出せず、勝は立ち往生していた。

 細い、一本の板がまっすぐ切妻屋根の屋上へ続いている。そのたもとにはケン太が立ちはだかるようにして待っている。

 くそっ、と勝は何度かの歯噛みを繰り返した。額から顎にかけ、びっしりと汗が噴き出ている。

 足もとを見ると目も眩むような高さである。

 高さは十階ほどもあろうか。遠くを見渡すと、大京市の眺望が開けている。そこにはこれほど高い建物は数えるくらいしか建ってはいない。

 さらには吹きつける風が恐怖感を増す。

 空気は湿っぽく、気圧が低いせいか、しきりと耳鳴りがする。顎を動かすと、ぽん、と鼓膜がなった。

 ぽつり……。

 勝の額に冷たい雨粒が当たった。

 はっ、と勝は空を見上げた。

 ぽつ、ぽつんと数滴の雨粒が勝の顔をうった。

 勝は顔をもどした。

 ケン太がにやにや笑いを浮かべている。

 くそお……そうか、そんなにおれを馬鹿にするのか……!

 生来の負けん気が頭をもたげた。

 ぐっと一歩を踏み出す。

 大丈夫、橋は丈夫そうだ。

「お兄ちゃん!」

 背中で茜が声をかけた。

「茜、お前はそこで待ってろ……!」

 ふりかえると先に進めなくなりそうな予感がして、勝はそのまま歩を進めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る