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「どうした? さっさとその橋を渡ってくればいいだろう!」
橋の向こうでケン太が笑いながら叫んでいた。
一歩を踏み出せず、勝は立ち往生していた。
細い、一本の板がまっすぐ切妻屋根の屋上へ続いている。そのたもとにはケン太が立ちはだかるようにして待っている。
くそっ、と勝は何度かの歯噛みを繰り返した。額から顎にかけ、びっしりと汗が噴き出ている。
足もとを見ると目も眩むような高さである。
高さは十階ほどもあろうか。遠くを見渡すと、大京市の眺望が開けている。そこにはこれほど高い建物は数えるくらいしか建ってはいない。
さらには吹きつける風が恐怖感を増す。
空気は湿っぽく、気圧が低いせいか、しきりと耳鳴りがする。顎を動かすと、ぽん、と鼓膜がなった。
ぽつり……。
勝の額に冷たい雨粒が当たった。
はっ、と勝は空を見上げた。
ぽつ、ぽつんと数滴の雨粒が勝の顔をうった。
勝は顔をもどした。
ケン太がにやにや笑いを浮かべている。
くそお……そうか、そんなにおれを馬鹿にするのか……!
生来の負けん気が頭をもたげた。
ぐっと一歩を踏み出す。
大丈夫、橋は丈夫そうだ。
「お兄ちゃん!」
背中で茜が声をかけた。
「茜、お前はそこで待ってろ……!」
ふりかえると先に進めなくなりそうな予感がして、勝はそのまま歩を進めた。
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