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「ふう……なんてこった!」

 勝はぶるぶると頭をふった。すっかり目が回っている。ぱたんと音がしたので背後をふりかえると、ふたりが吐き出された穴に蓋が閉じられたところだった。

 ひゅう……と、風がふたりの髪の毛を逆立てる。

 空気が湿っぽい。

 いきなり強い風が吹きつけ、ふたりははっと頭をあげ、あたりを見回した。

「こりゃあ……」

 勝は言葉を呑みこんだ。

「屋上だわ!」

 茜がつぶやいた。

 ふたりは立ち上がった。

 そう、ふたりが運ばれたのは高倉邸のどこかの屋上であった。かなり高い場所にあるらしく、目の前には別の建物の上部しか見えない。その建物は急角度の切妻屋根をもち、高倉コンツェルンの紋章が装飾されていた。

 勝は背後をふりかえった。

 そこには勝たちを吐き出した壁があるだけで、ほかの出入り口はない。つまり後戻りできないのだ。

「さあ、ぼくと勝負したいのなら、目の前の橋を渡ってくるんだ!」

 どこからかケン太の声が聞こえてくる。

「橋を?」

 勝はぼんやりとつぶやいた。

 橋なんか、どこにある?

「お兄ちゃん、あれじゃない?」

 茜が指さす。

 その方向を見て、勝はがくりと口を開いた。

「橋って、あ、あれかあ!」

 大声を上げた。

 いまいる屋上から、目の前の切妻屋根の建物に、一本の橋がかけられていた。

 幅、わずか一歩分しかない。しかも手すりなどない。ただの板が、一本、切妻屋根の建物に延びているだけだ。

 切妻屋根の建物にも、こちらとおなじような屋上がある。その屋上に、ひとりの青年が立っていた。

 真っ赤なガクラン、金髪のリーゼント。足もとは編み上げのスニーカーだ。

 高倉ケン太である。

 そのケン太は、橋のたもとに後ろ手をして悠然と立っていた。口許には笑みを浮かべている。

 くそっ、と勝は唇を噛みしめた。

 一歩、前へ踏み出す。

 橋に足をかけた。

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