2
ちかちかと瞬くライトにケン太は唇を噛みしめた。
「杏奈のやつ、外に出たのか。閉じ込めておいたのに……いったい、どうやって?」
すばやくカメラを操作する。モニターに、幸司の姿が映った。ふたり、手を取り合って廊下を歩いていた。
「あれは……先週雇ったばかりのコック見習いじゃないか」
憤然としてデスクのボタンを押した。スピーカーに部下の声がする。
「はい、なにか御用でしょうか?」
「コック見習いの田端幸司について知りたい。やつの前歴は?」
少々お待ちください、とあってすぐさま応答があった。
「ええと、真行寺家に奉公していた記録があります。どうやら首になったかどうかしたようですな」
「そうか、わかった……」
ケン太はスピーカーのスイッチを切った。
考え込む。
「真行寺家のコックだと? そいつが杏奈を外に出した……。なにかあるな!」
なにもなかった。
幸司はなりゆきで閉じ込められた杏奈を出してやっただけのことである。
歩きながら、かれは杏奈に話しかけた。
「いったい、どうして閉じ込められていたんです?」
それがねえ……と、杏奈はかわゆく唇をとがらせた。
「あたしが勝手なことするから、お兄さまが学校が始まるまで、部屋から出るなって言うのよ! もう、頭にきちゃう!」
「お兄さま……それは高倉ケン太……さんのこと?」
一応彼女の前だ。「さん」付けで呼ばないとまずいだろう。
「いいのよ! 呼び捨てで!」
杏奈はぷりぷり怒っている。と、何か思い出したように幸司を見た。
「ところで、あんた道に迷ったって言ったわね。どこに行くつもりだったの?」
あ……! と、幸司は頭をかいた。
「すみません。それがぼくにも判らないんです」
そうだ、どこへ行けば良いのだろう。素早く頭を働かせた幸司はあることを思いついた。
「ねえ、その高倉ケン太さんのところへ行くにはどうすれば良いんです?」
美和子はケン太のところを目指しているはずだ。だからそこへ行けば良い。幸司は満足だった。なんてじぶんは頭が良いんだろう!
「お兄さまのいるところ?」
杏奈は繰りかえすと、うんとひとつうなずいた。
「それじゃいらっしゃいな! お兄さまのいるところなら見当がつくわ! それにあたしもお兄さまに言いたいことがあるの」
ひらりとスカートをひるがえし、杏奈は急ぎ足になった。幸司はその後を追って走り出した。
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