3

「迷っちまったなあ……」

 勝は不機嫌につぶやいた。

 思ったよりコロシアムの地下は広い。廊下は長々とのび、様々なところでふたつ、みっつにわかれ、ドアがいくつも並んでいる。ドアを見つけるたびに開けてみるが、たいていはがらんとした空間が広がっているだけで、いまは使われていない部屋がほとんどのようだった。警備員のひとりを人質に取り、案内させるんだったと後悔したがもう遅い。

 いくつかのドアを試したところで、ふたりは立ち止まった。

 今度の部屋はほかと違っていた。

 かなりの広さの倉庫になっているらしく、目に届く限り棚が並び、段ボール箱が積み上げられていた。天井には黄色い照明が吊るされ、倉庫全体を照らしている。

 ふたりは誘われたように中へと侵入した。

 少し進んだところで床に動く人影を目にした。

 ぎくりとふたりは立ち止まった。

「誰だ!」

 鋭い声がして、勝はものも言わずに人影の見えた方向へ走り出した。積みあがられた荷物の陰へ姿を消す。

 とたんに「ぐえっ」とか「うぐっ」という押し殺した声がした。

 どどっ、と勝が物影から飛び出した。どん、と背中を壁に押し付け、目をまん丸に見開いていた。

 茜は立ちすくんだ。

 たらり──。

 勝の学帽にかくれたこめかみから一筋の血が流れている。

「お兄ちゃん!」

 茜は悲鳴をあげた。

 くそっ、と勝は悔しがった。

「いきなり殴りかかるとはどういうことだね?」

 落ち着いた、静かな声が物影の向こうから聞こえてきた。勝の睨む方向から、ひとりの男が姿をあらわした。

 ぼろぼろの着衣に、背中まで伸びた頭髪、顔はもじゃもじゃの髭に覆われ、目だけがぎょろりと光っている。

 ひょろりと痩せたその男は、じろりと勝と茜のふたりに目をとめた。

 ようやく息を整え、勝は吠えた。

「とぼけんな! おれたちゃ、真行寺美和子と、只野太郎の行方を探しているんだ。何か知っているなら、とっとと吐きやがれ!」

「……」

 男の目が見開かれた。

「真行寺美和子と只野太郎だと? どういうことだ? ふたりに何があった!」

 いきなり、男の態度に変化があった。

 勝と茜は顔を見合わせた。

 どうやらこの男、敵ではない。なぜかそんな確信がわいた。

「あたしたち、コロシアムのトーナメントに出場していて……」

 茜が口火を切った。

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