救出
1
「行ったわ……」
茜がつぶやき、ふたりは物影からコロシアムの中へ踏み込んだ。
オレンジ色の空を、飛行船が小さくなっていく。コロシアムには人っ子一人見当たらない。太郎と美和子は麻酔銃で眠らされ、コロシアムの施設内に連れ込まれていた。
「お兄ちゃん、足音たてないで!」
歩き出そうとした勝を茜は叱った。一歩踏み出すとがらりと意外におおきな下駄の音がしたのである。
勝は憤然として下駄を脱ぎ、鼻緒に紐をかけて首にかけ、裸足になった。
「これならいいだろ!」
うなずいて茜はそろそろと歩き出した。勝もその後につづく。
コロシアムはしん、と静まりかえっている。
壁にはちいさな窓が規則的にあいている。その窓からだれかが見ているのではないかと茜は気が気でなかった。
つい足取りがちょこちょこと小走りになる。
美和子と太郎が連れ込まれたドアの前に立った。ドアは固く閉められ、ためしにドアノブを廻してみたが案の定、鍵がかかっている。
「どいてみろ」
ずい、と勝が茜をおしのけた。
ぐいっ、とノブを掴む。
勝の顔が見る見る真赤に染まった。
むっ、とかれは息を詰めた。全身におそろしいほどの緊張が高まっている。茜はそんな兄をはらはらしながら見守っていた。
ぴしっ、となにかが弾ける音がした。
がたん、と大きな音を立て、ドアの蝶番が撥ねとんだ。ふうーっと勝がおおきく息を吐く。
「あいかわらずの馬鹿力ねえ……」
茜がつぶやくと、勝は気分を損ねたのか、ほっとけとつぶやいた。ぐわぁりとドアを放り出し、勝はうつろに空いた入り口へと足を踏み入れた。
入ったすぐが下へと続く階段になっている。
ふたりは階段を降りていった。
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