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 ぼおーっ、と汽笛が鳴り、船は桟橋を離れていった。

 舷側に記者たちが鈴なりになって遠ざかる番長島を見送っている。

「ねえ、どう思います」

 ひとりの若い記者が、となりで煙草をくゆらせている年配の記者に話しかけた。年配の男はぽい、と吸いさしを海面へ投げ棄てると、煙草の箱を胸ポケットから取り出し、若い記者に差し出した。

「いえ、ぼくは吸いませんので」

 そうかい、と年配の男はつぶやくと、もう一本を口にくわえた。

「どう思うって、なにがだい」

「あのテレビに映った書類のことですよ!」

 若い記者は勢い込んで喋った。

「あれはぜったい、なにか高倉コンツェルンにとって都合の悪い事実が書かれていたに違いないんだ……畜生、写真があればなあ」

 若い記者は悔しそうにつぶやいた。かれのカメラは高倉家の召し使いたちによって取り上げられていた。だけでなく、ここにいる全員のカメラが没収されていたのだった。

 年配の男はちらりとあたりを見回すと、若い記者にこっちへ寄れと合図した。若い記者は何事かと年配の男に近寄った。

 年配の男はこっそりとふところからなにかを取り出した。銀梨地のなめらかな四角い箱に、レンズとファインダーがついている。手の平にすっぽり収まるほどの小ささだ。

 若い記者は目を丸くした。

「それ……カメラじゃないですか?」

「そうだよ、超小型カメラでね、スパイなんかが使う奴だ。おれはいつも、これを持ち歩いているんだ。高倉コンツェルンのやつら、見つけられなかったらしいな」

「じゃ、それに?」

「ばっちりだ! ちゃんと撮影している」

 若い男はそれを聞いて背をのびあがらせると甲板を見渡した。

 一段高くなっているところに、トニー滝の姿が見える。かれもまた強制的にこの船に乗り込まされていたのだ。

 トニー滝はわけがわからない、といった表情でぼんやりと遠ざかる番長島を見送っている。海風に、いつもはきっちりとポマードで固められている頭髪が揺れていた。

 年齢不詳の男であるが、いまはひどく老け込んで見えた。

 若い記者はあらためて年配の記者にささやきかけた。

「それじゃ本土についたら?」

「うむ、こいつを現像して引き伸ばし、うちの法律部門の連中に分析させる。そしてなにか判ったら……」

「スクープですね!」

 若い記者の声に喜色がおびた。

 うん、と年配の男はうなずいた。

 煙草に火をつけることを、かれはすっかり失念していた。

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