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「何か、変だわよ」

 茜がつぶやき、勝は立ち止まった。

「何が変だってんだ?」

 しっ、と茜は勝を制してコロシアムに引返した。

 物影からコロシアムの中をのぞきこむ。

 時刻はすでに夕刻近くなっている。

 ほのかにオレンジ色に染まった日差しのなか、地面に美和子と倒れこんでいたのを見て、茜は息を飲み込んだ。

 そのまわりに警備隊の服装をした数人が取り囲んでいる。

 やがてふたつの担架が運び込まれ、美和子と太郎はそれに移された。担架が持ち上がり、部下たちが運んでいく。

「なんだあ、ありゃ……わっ、なにするんだ……」

 大声を出しかけた勝の口を、茜が手でふさいでいたのだ。

「馬鹿ね、大声出さないの!」

 茜の言葉に勝は口を引き結んだ。

「飛行船が動いている……」

 茜がつぶやいた。

 その言葉どおり、それまでコロシアムのステージ近くに繋留されていた飛行船がゆったりと動き出していた。斜路が内部に引き込まれ、飛行船はしずしずと進みだしている。

 茜は勝の身体を引っ張った。

「なんだよ?」

「隠れるのよ!」

 茜は勝に空中に浮かんでいる飛行船を指さした。

「美和子姐さんと、太郎さんを助けなきゃ! そのためには飛行船から隠れないと……」

 茜の説明に勝はうなずいた。

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