逃走

1

「なにをする! おれたちは招待された記者だぞ!」

「うるさい! それを渡せ!」

「いやだ!」

「なにっ!」

 コロシアムの観客席では混乱がおきていた。

 高倉コンツェルンの部下たちが観客席の記者たちに殺到し、メモやカメラを無理やり取り上げようとしている。それを拒否する記者たちとの間で、騒ぎになっていた。

 その騒ぎの中、木戸がわけいった。

「あんたたちはすぐ船に乗って、この島を出て行ってもらう!」

 木戸の言葉に記者たちはきっと顔を上げた。

「なんだと……! おれたちは高倉ケン太氏にインタビューを申し込む! さっきのテレビの内容について……」

「うるさいっ!」

 木戸は一喝した。かれの大声に、記者たちはびくりとなった。木戸の表情は一変していた。眉が険しくなり、目はらんらんとしたひかりをたたえている。

「いつまでも甘い顔をしていると思うなよ! お前たち、だれを相手にしていると思っている。高倉コンツェルンの総帥である、高倉ケン太さまが相手なのだぞ」

「何を言う……あのような不正の証拠を見せられて黙っていられるか! おれたちは社会の警鐘を鳴らす立場として……」

 かっとなった記者のひとりが木戸に食ってかかった。木戸はじろりと記者をにらむと、からからと高笑いをした。

「馬鹿なことを! この国を実質掌握している高倉コンツェルンのちからに対抗できるわけがあるか! いいか、警告しておく。もしこのことを記事にしようとすれば、高倉コンツェルンの実力を、いやというほど味わうはめになるだろう」

 記者は蒼白となった。

「きょ……脅迫するつもりなのか?」

「脅迫? いいや、ただの事実をのべたにすぎん。あんたらの新聞社の資本は、高倉コンツェルンがすべて握っている。スポンサーの機嫌を損なうことが出来るかどうか、試してみるが良い!」

 記者は黙った。しかしその表情には怒りが燃えていた。

 さっと木戸は手をあげ、合図した。

 部下たちが麻酔銃をかまえ、記者たちを出口へと誘導する。銃を突きつけられた記者たちは口惜しさをあらわにして、部下たちに連れられ、コロシアムを後にした。

 

 がちゃ、がちゃと銃の撃鉄が動く音がして、美和子と太郎のまわりに警備隊の部下がとりまいていた。

 太郎は美和子をかばって前へ出た。

「なにをするつもりだ!」

「すこし眠ってもらう」

「なんだと?」

 部下たちはふたりにむけ、麻酔銃の引き金を引いていた。

 しゅっ、とため息のような音がして、ふたりにむけ白い煙が噴出した。煙を吸い込んだふたりは、くたくたと全身の力が抜けるように倒れこんだ。

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