7
ざぶん、と波をけたて、千賀子は海面下に沈んでいた。数メートル沈み、彼女は待った。
ほどなくアクアラングを身につけたダイバーが近寄り、彼女にボンベのマウスピースを咥えさせた。空気を吸い込み、千賀子は大丈夫と指で輪をつくる。
うなずいたダイバーは腰から懐中電灯を取り出し、二度、三度と点滅させた。
やがて水中にまるい、巨大な影があらわれた。
それは潜水艦だった。
ダイバーに案内され、千賀子は潜水艦のハッチへ潜り込んだ。ハッチの水が排水され、ドアが開くと潜水艦内部へと進むドアが開く。
待っていたのは執事協会で太郎の訴えを受理した、芳川女史であった。
これは執事協会の所有する潜水艦なのだった。
「ごくろうさん。あんたの放送は、こっちでもモニターしていたよ」
千賀子は芳川のねぎらいに笑顔をつくった。
うなずくと、身につけていた中国服のボタンを外し始める。彼女の中国服の下から、メイド服が現れた。中国服を脱ぎ去り、メイド姿になった千賀子はおおきくため息をついた。
「ああ、窮屈だった! やっぱりあたしはこの格好がいいわ!」
くすくすと芳川は笑った。
「中国服の下にメイド服を重ね着していたんじゃ、窮屈なのも当たり前よ!」
へへっ、と千賀子は舌を出したが、すぐ真顔になって話しかけた。
「それより真行寺美和子と、只野太郎のふたり大丈夫かしら? あれで高倉コンツェルンの不正が白日のものになったのかしら」
芳川は頭をふった。
「それは判らない。でも、わたしたち執事協会は裁定者ではないのよ。あくまで協力者の立場をくずすことは出来ません。でも、あそこには大勢の記者がいたから、隠しおおせるわけはないでしょう。それにトーナメントの視聴者もいるから、明日の新聞記事は大変なことになるわ。あとはかれらの自助努力にまかせましょう」
芳川は肩をすくめた。
「あの只野太郎の報告に、わたしたちが独自の調査を開始して判ったことなんだけど、まあ高倉ケン太とは大変な策士ね! じぶんの召し使いを真行寺家に潜入させ、ひそかに財産を奪うとは……。でも、あんな不正をわれわれ執事協会はぜったい見過ごすことは出来ない!」
芳川の言葉に千賀子はうなずいた。女史はふりかえり、叫んだ。
「さあ、いつまで愚図愚図していないで、戻るわよ!」
部下がきびきびと動いて潜水艦の操舵を開始した。
「了解! 全速前進、深度五十!」
モーターの音が高まり、潜水艦は動き出した。
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