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「お兄ちゃんの声がする……」
雨に打たれながら、茜はつぶやいた。
彼女の側で美和子は顔を上げた。
「本当?」
うん、と茜は強くうなずいた。
あれから茜は美和子と太郎と行動をともにしていた。茜の助言で、美和子は制服に手を入れ「スケバン」らしい格好になっている。
スカートは短く、上着の胸元は大きく開き、胸の谷間が強調されている。太郎の手によって制服は仕立て直され、身体のラインをくっきりと見せるデザインに手直しされていた。太郎の裁縫の腕に、茜は感嘆していた。
太郎にとって美和子の服に手を入れることは当たり前のことだった。洗濯はもとより、ほころびを繕うのは召し使いとしての必要な技能であったのである。仕立て直された制服に着替えるとき、美和子は恥じらいを見せた。
太郎が着替えを手伝うと申し出たとき、美和子はそれを拒否したのである。そのやりとりを耳にして茜はあきれたといった口調になった。
「女の子の着替えに、男のあんたが立ち会うなんてありえねえっ、つうの!」
茜の言葉に太郎はちょっと首をひねった。
「しかしいままでお嬢さまのお着替えには、わたくしが同席しておりましたが」
太郎の返答に茜は目を丸くして叫んだ。
「うっそーっ! そっちのほうがおかしいよ! いいから、美和子姉さんの着替えはあたしが付き合うから、あんたは外で待ってなよ!」
宿泊所の部屋から太郎は茜によって廊下に押し出された。人気のない廊下に、太郎はぽつんと取り残され所在無げに立ち尽くした。
どういうことだろう?
いままで美和子は太郎の前に、平気で下着姿を見せていたのに。
ぼんやり考え込んでいると、ドアの向こうから茜の声がする。
「入っていいよ!」
その言葉にほっとした太郎はドアのノブに手をかけた。
「失礼いたします……」
開け放たれたドアの向こうに、美和子があらたな服装で立っていた。
太郎は目を瞠った。
「どうかしら? あたし、似合って?」
美和子の質問に、太郎はゆっくりとうなずいた。
「とてもお似合いでございますよ」
実際、仕立て直されたセーラー服は、美和子の新たな魅力を引き立てていた。強調された胸の谷間、すらりと伸びた足。ウエストはぎゅっと絞られ、かすかな隙間が彼女の細い胴回りの肌を覗かせている。
そう……、と美和子はうつむいた。
頬がピンクに染まっている。
そんな美和子を、茜はいぶかしげに見つめていた。
「お兄ちゃんの声だ! 戦ってる!」
叫んで茜はばしゃばしゃと水溜りを走り出した。ざあっ、と横殴りの雨がたたきつける。
待って! と、美和子も走り出す。太郎も追いかけた。
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