洋子がふたたびスタジオに戻ると、ケン太はモニターの前で椅子の背に背中を押し付けるようにして両手を後頭部にまわしてつぶやいていた。

「ふうむ、妙な動きだな。あの四人は帰還しているのか?」

「はい、お呼びを待っております」

「入れろ。質問したい」

 はっ、という応答と共に、太郎に倒された四人の男たちがぞろぞろとモニター・ルームに入室してきた。着替えたのか、ごく当たり前のスタッフの服装をしている。かれらはケン太の前にずらりと整列した。

 この四人はケン太の部下である。ケン太はかれらに太郎の技を引き出すため、罠をかけることを命じていた。そのために一人で行動している茜に目をつけ、後をつけさせたのである。やがて茜と太郎たちが接近すると、おびき出すためにあの芝居を打たせたのだ。

 ケン太は居住まいを正すと、口を開いた。

「お前たち、太郎と戦ったとき、何が起きた? 太郎はお前たちに何をした?」

 判りません、とひとりが首をひねった。

「首や、背中にあいつの指が触れたのは憶えているんですが、あのあと全身が痺れたようになって……」

 もう一人がうなずいた。

「そうなんです。あっという間の出来事でした。まるで撫でられただけ、と思ったんですが、どういうわけかあの後まるで身体が動かなくなって……」

 みな訳がわからない、といった表情になっている。

 ケン太は背後の洋子をふり返った。

「洋子、太郎の使った技についてなにか知っているか?」

「あれは〝執事護衛術〟のひとつです。人間の神経の結節点を刺激する秘法なんです。正しい順路で神経を刺激すると、あらゆる効果を発揮します。達人クラスになると、相手を殺すことすらできるそうです」

「お前はそれが出来るのか?」

 洋子は首をふった。

「いいえ、太郎のような使い手になるには才能が足りませんでした。わたしの知っているのは、初歩的な執事格闘術だけです」

 ふうむ、とケン太は顎をなでた。

 なにか考え込んでいるようだ。

 もし、あいつと戦うことになったら……。

 モニターをじっと見つめるその視線は、いつか、その日が来るのではないかと予感している目つきだった。

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