大京市

「お乗りのかたはお急ぎくださーい!」

 小姓村駅の駅長が、ながながと語尾をのばす独特の発声で叫んでいる。

 小姓村には、いちおう駅舎が完備した駅があった。駅長一人のちいさな駅であるが、それでも初夏から晩秋のシーズンには、執事学校のホテルに避暑のための客がやってくることもあり、施設はそろっている。

 線路は単線である。

 ただひとつのホームには、蒸気機関車が煙突からもくもくと黒煙を噴き上げ、出発のときを待っている。天候は今日も朝からどんよりとした雪雲がたれこめ、ちいさな雪片が舞い散っている。

 のぼりの汽車に乗り込むのは太郎ひとりだった。ほかの執事学校のクラスメートは出発の日にちが違っている。ホームでは母親が見送りに出ていた。

「暖かくしなくてはだめよ。大京市につくまでは、まだこのあたりは冬が続いているんだから」

 そう言いつつ、彼女は太郎の首の襟巻きを直した。太郎はうなずいた。

 出発しまーす、と駅長がふたたび語尾をながながと伸ばして叫んでいる。乗車をうながすように、汽車が汽笛を鳴らす。機関車のシリンダーからはせいだいに白い蒸汽が吐き出された。

 それじゃ、と太郎は客車に乗り込んだ。

 太郎が乗り込むと、すぐにがったんと機関車の動輪が回転しはじめた。

 ふたたび汽笛が鳴り響き、ごとごとと震えながら汽車は走り出す。太郎はタラップから顔を突き出し、見送りの母親の姿を探した。

 すでにホームの端まで来ている。母親はホームの端っこに立ちつくし、じっと太郎の顔を見つめていた。どんどん母親の姿はちいさくなり、あっという間に見えなくなってしまった。

 ほっとため息をつき、太郎は顔を引っ込めタラップから客車の内部へ歩き出した。片手には身の回りの品を詰め込んだトランクを提げている。

 手に一等客車の切符を握りしめている。番号を照らしあわし、じぶんが座る個室をさがす。

 大京市までは一泊二日の旅である。

 個室は夜には寝室になる。

 ようやくじぶんの個室番号を探し出し、太郎はドアを開いた。

「お早う!」

 いきなりの女の子の声。

 太郎はぎょっとなった。

 見ると個室で太郎を待っていたのは、洋子だった!

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