人の気も知らないで

「あ〜の〜で〜す〜ね〜?」

久々に頭に来た。と言うより初めてだと思う、此処まで頭に来たのは。

「いい加減にして下さいって言いませんでしたっけ? 言いましたよね? 俺言いましたよね?」

「えーと……レイ、ハ?(汗)」

「…………………………言ったな。少なくとも僕が見てるだけで30回は言ってる」

「言ったのに聴かなかった耀翔さんが悪いんですからね? 『仏の顔も三度まで』って言うのに……」

「うわわ……ッ……御免ってレイハ!」

「…………………………自業自得、因果応報」

ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!

と言う悲鳴が辺りに響き渡ったのは言うまでも無い、耀翔の悲鳴である。



「……………………………耀翔ってバカだよな……」

「知りません」

午後のお茶会ティータイムをしながら蓼が呟くとレイハは柔らかな頬をプクッと膨らませてプイッとそっぽ向いた。どうやら暫く赦すつもりは無いらしい。

「……………………………しかし、よく我慢したな……レイハは偉いよ」

「むぅ……そう思うなら止めて下さいよ…………」

「……………………………僕にあの凶行を止めろって?」

「ハイ」

「……………………………ソレは無理な相談だよ、これ以上耀翔の変態性を深く知りたいとは思わないよ?」

「え〜……」

薄く笑って蓼は紅茶の入ったカップを持ち上げて優雅に口に運んだ。そして

「……………………………彼奴の変態は今に始まった事じゃ無いしね。彼此九年間はあの性格のままだ。僕が彼と会ってから一向に変わる気配すら無い」

「そうなんですか? ……じゃあ手遅れ…………?」

「……………………………彼奴が変える気が無いのか、そうで無いのか……彼奴アイツの溝知る、だな」

「変える気が無いと思うんですが……(汗)」

「……………………………本人に変える気が無いのなら致し方無し、だな」

蓼は簡単にそう言うとズズッと音を立てて紅茶を飲んだ。今日の紅茶はストレートティーだ。飲む種類はコロコロ変わってるがストレートだけは一日一回は必ず飲んでいるくらい、蓼のお気に入りの茶葉だった。

「…………………………レイハも食べたらどうだい? このお茶菓子は美味しいンだ」

そう言って蓼はテーブル上の菓子が入った駕籠カゴをレイハの目の前まで移動させた。

「有り難う御座います。でも今は要らないです……」

「…………………………レイハ、此処ココ最近まともに食ったのはいつだ? いつも食べた後に吐いてるだろ?」

「!? …………バレて、たんですか……?(汗)」

「…………………………バレない訳無いだろ、コレでも観察眼に関しては耀翔変態作家に負けを劣らずなんだぞ?」

「そうですか……(汗)」

レイハは傍から見ても随分痩せてきている。元が細いのでもう既にガリガリのモヤシに近かった。

レイハの食が細くなったのは彩煉が来てからだった。

──…………彩煉のヤツ、何を思い出させたんだか……

レイハが話したがらない事に首を突っ込む気は更々無い。

だがここ最近のレイハの痩せ方は異常な程だ。

まるで────────

「……ん…………蓼さん、蓼さん? どうかしましたか?」

「…………………………あ、あぁすまない。少し考え事をしていたんだ」

「そうですか?」

見た所レイハに異常は見えない。ただ痩せ細りしているだけだ。だけれど、ボクの推測が当たっているのなら……?

もしレイハがなにか別のモノに▪▪▪▪▪侵食若しくは乗り変わられ始めていたとしたら……?

身体の異常な程の痩せ細り方はもしかしたら……?

「り、蓼……さん? 本当にどうかして……?」

「…………………………レイハ、彩煉が来てからなんか身体が可笑しいとか、無いか?」

「へ? 身体、ですか? いえ、特には何も……確かに最近は食欲が無いですけど」

「…………………………そうか」

どうやらレイハ自身はただの食欲低下だと思っているらしい。

──…………僕の思い違いや思い過しだと、良いんだが……

本人がどうも無いと言っている以上、僕から突っ込む訳にはいかない。

「…………………………なにかおかしいと思ったら、遠慮無く言ってくれよ?」

だからレイハにそう言って頭を撫でる。レイハはキョトンとしながらも、コクリと頷く。

──…………全く……人の気も知らないで▪▪▪▪▪▪▪▪▪

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黎明の雄叫び 幽谷澪埼〔Yukoku Reiki〕 @Kokurei

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