第39話

 人類が宇宙進出のために造り上げた、世界最強の、ゆりかごを守る防人。

 かつて人類が、まだ青かった空のむこうに夢を見いだしていた頃に作られた希望の尖兵。

 弾はない。武器もない。増援はない。希望も、ない。傷ついた翼はかつての輝きを失って久しい。

 だが、まだ飛べる!

『飛べる?』

 焼けたシルフィードのコクピットに乗り込むと、無線に少女の声が聞こえた。かつて世界最強とうたわれた兵士の自分を守り、カートと戦うシルフィードに乗った少女。

 守るために己の手足を縛り、また守るために己を殺してきた、枷。

真に助けられたのは自分かもしれない。

 ユーヤーはしばし沈黙ののち、メインパワースイッチに指を伸ばして手を止める。

 ソノイ・オーシカ、私が守るべき人間の少女。しかしユーヤーは、人工呼吸器付きの強化アーマーに自身を包んだ人工兵士。

 誰にも覗かれない、アーマーの中でユーヤーはフッと笑う。

「行けます。エンジン再始動に……四十秒!」

『急いで!』

 俺はカートじゃない。

ユーヤーはシルフィードのスイッチを入れ、コクピットに光りを取り戻した。

 空にはかつての仲間達が、甲高いエンジンの悲鳴をあげながら飛んでいる。

 双発の翼、シルフィードのエンジンに火が灯る。

 石舞台を、かつて自分たちを取り巻いていた絶望の赤い瞳たちが取り巻いていた。

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