第38話
『!? ソノイちゃん、艦がうごいた! いいえまさか!!』
ソノイは紅炎に言われて頭上を見た。確かに、頭上に待機していた戦艦マラグィドールが動いている。
しかしその動きには何か意味がありそうだった。同時に地上各所から、無数のトマホークが現れて風を切りながら飛び始める。
「あの艦、動くの?」
『動かないはず! だって、艦長がグレイヴのハゲだもん!』
「艦長がいないのに動く物?」
『そんなはずはない』
目の前の坑道から肉が現れて、中からあらゆる機械の廃材や死体の山を吐きだして群を作る。
その中には、あのグレイヴの乗っていたトマホークの残骸もあった。
残骸が他の残骸と混ざり合って、新しいトマホークとなり目の前に立ち上がる。
『そんなはずはない! しかしまさか大佐が』
ユーヤーのトマホークは全身から煙を吹き出し、膝を折ってその場でうずくまっている。
すでに機体は限界だろう。ここで、シルフィードが前に立った。
「覚えておいて、少尉。私あなたになんて言った?」
肉の塊が上空に伸びて、巨大な一つの波となってソノイたちの上に盛り上がる。
「私はあなたに、生きろと言った。それはね、自分を守るためじゃない、戦うため!」
肉の波がソノイたちの打ち付ける。本体のほとんどは、坑道内で孵化したカートの幼体だ。
地面に肉が接地した瞬間、ほとんどのカートは破裂し引き裂かれ、肉片を周りに飛び散らせながら粉々に砕けていく。
その直前、ソノイはシルフィードを駆ってユーヤーのトマホークを引いて飛んだ。
「プロは最後まで諦めないものよ。たとえ死ぬことを命令されていたとしても」
『だが我々は』
「あなたは仲間よ。敵か味方か、カートか何かなんて関係ない!」
『では、何と?』
「パートナーよ!」
ソノイはインカムに向かって叫んだ。
「今までも。これからも。あなたが私をそう思ってくれるならね!」
『パートナー?』
脚を失い地面に立てなくなったユーヤーのトマホークが、静かにその機能を停止する。
トマホークは、倒れた仲間の機体を組み立てて作った再生兵器だった。ユーヤーの機体もそうだ。
色違いのアーマーの下には、仲間が命に代えて譲ってくれた体が使われている。
仲間が残してくれた手足を使って、ユーヤーはトマホークを脱出ししばし地面と向き合い嗚咽する。
肉の塊が悲鳴をあげて、仲間を空から、地中から呼び寄せた。
呼応するように周囲からカートたちの、バーヴァリアンたちの声が響きトマホーク達のエンジン音が迫る。
『諦めない……』
「まだ飛べる?」
『まだ……飛べる!』
ユーヤーの前には、墜落し半壊したシルフィードがあった。
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