第34話 

 肩に取り付けた強力な白色ビームが前方を照らし、ソノイたちは遺跡入り口の前に立った。

『基地だ』

 グレイブの声に、紅炎が叫ぶ。

『ここ、こんなだったっけ?』

『ここが俺たちの仕事場だ』

『我々の生きた証……』

 グレイブとユーヤーがそれぞれ声を出す。

『そして、我々が無駄死にした場所』

 基地の地下に伸びる暗い遺跡は、光る液体に満たされたなにかのカプセルのような物が安置されていた。

 等間隔で配置され薄い緑色に輝いているそれらカプセルは、結晶体のような、幾何学的でまっすぐな線を六方向に向けて壁に埋め込まれている。

「きれい……これが遺跡?」

 ソノイは感嘆の声を上げた。

『感傷に浸っている暇はないぞ少尉。ここで立ち止まって死にたいのか?』

「き……うわ」

 ソノイのシルフィードが遺跡に入った瞬間、足下で何かが割れて青い輝きが壁面を灯した。

 それは割れたカプセルだった。かなり薄い殻で液体が覆われているようだ。中には、何か入っている。

『俺たちの生きた証だ』

 ガンを構えて、グレイブのトマホークが遺跡内部に足を入れる。

『ここから先は俺たちの故郷のようなところだ。さあ、行くぞ』

 グレイブの先導に続き、ユーヤー、ソノイがあとに続く。

 そこには大量のカプセルが埋め込まれ、あるいは乱雑に床に投げ置かれていた。

『かつて俺たちは、このような所から生み出されていた。もっとも、アンビギューターが作られたのはもっと別の場所だったがな』

「紅炎はそれ、しってた?」

『わたしは電子妖精だしー。アンビギューターとは違うわ』

 紅炎は興味ないといった様子で答えた。

「大佐はどこで生まれたんです?」

『この穴の、ずっと向こう側だ。かつてアンビギューター・サテロイドフォースがタワーの先を目指していた頃の話だ』

「タワーの先を目指す……」

 それは人類が、かつて星を目指していた頃の話だと聞いていた。まだこの地球に、カートたちが現れなかった頃の時代だそうだ。

 カートは突如地球上にその姿を現すと、町や村を問わず無差別に襲い飲み込んでいったと聞く。

 その無差別攻撃をするに至った経緯が分からず、人間はとにかく「自衛のための攻撃手段」として、打ち上げ準備中だった彼らを地上にとどめて戦場に投入したとか。

 それが、いつの間にか自衛と奪回のための戦いが「自分たちを守るための戦い」に変わっていった。それがいつしか、籠城組と使い捨て組に分けられていたと聞く。

 ソノイはその籠城する側にうまれながらいた。

 明るい空。楽しい地上。未来ある学園生活に、温度調整のされた四季のない完璧な世界。

 ソノイはある日、自分たちの住む世界が小さな偽りの世界だったことに気付かされた。

 軍事組織の関係者でもあるソノイのある家族が見せてくれた壁の外の世界と、その話に。自分たちの知っている世界との乖離に気が付いて疑問を持つようになる。

 カート討伐の話やニュースは時折聞く程度の話だったが、一部軍人は今でも外の世界に出て行っているらしい。

 平凡安泰な世界の内側にあるありきたりな仕事に就けば、自分は一生無事にすごせるだろう。そう思ってもふと、あのとき聞いた壁の外の話が気になった。

 ソノイは努力をして、軍人になった。

 もしかしたら今はもうほとんど交流のない、家族の支えがあったかもしれない。

「守るための戦いか……」

『なにか言った?』

「いいえ、なにも」

 ソノイは道を踏みはずす。軍人になり、危険で、生きる事も、対価も望めない絶望的な世界に自分から一歩踏み出すことにした。

 足下に、踏み抜かれ中身が漏れたカプセルが転がっている。淡い光が洞窟を照らし、光りが光りを読んでさらに煌々と遺跡中を淡く照らした。

「もろい殻ね。これじゃ壊さない方が難しいわ」

『めずらしいね、なにか考え事?』

「んーん。ただ、何か懐かしかっただけ」

『自虐?』

 紅炎がからかうように耳元でさわぐ。

『殻にこもるなんて、まさに誰かサ……』

『お前らすこし静かにしろ! こがどこなのか忘れたのか? 俺たちの故郷だ!』

 グレイブの声が無線に響いた。

『やつらの住処だぞ』

 遺跡内部に溢れる淡い光が、遺跡中に隠れるカートたちの牙をうつす。

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