第33話 自らの中の壁

 上空に泊まった見慣れない艦艇から、ユーヤーとグレイブ大佐のトマホークたちが降下してくる。

『やはり降りていたか。命令違反だが、味方は誰か生きていたか?』

「いいえ誰も」

 グレイブの問い合わせにソノイは口元のマイクを握ったが、一瞬黙って考えこんだ。

「あれはみんな味方だったのでは?」

『いいや敵だ』

 グレイブのトマホークは振り返り、アックスをソノイに向ける。

 歴戦の戦士らしく、トマホークの機械の腕を自由自在に動かす。トマホークはまるで生きた人間そのもののようになめらかに動いた。

『敵は出所不明の寄生生命体だ。俺たちは、その寄生体が出てくる場所を突き止め、叩きつぶす。それが与えられた仕事だ』

「上の艦艇は?」

『俺たちのマザーシップだ』

『マラグィドール……』

 グレイブの声に、紅炎が反応する。

『いつ取り返したの?』

『取り返すだと? 我々は元の母艦に帰ってきただけだ。この艦が、本来の我々の居場所だ』

 ずーんと、どこかで何かが崩落する音が聞こえる。グレイブがセンサーを回し基地中のスキャンを始めた。

『ここがカートの製造工場か。この崖に囲まれた基地の下層には、あの馬鹿でかいタワー付近へと通じる遺跡が存在する。俺たちはカートの小部隊と戦闘になり、俺たちの降下艇は大破した。現在、生き残った俺たちの同胞が母艦の奪還と再起動を試みている』

「降下艇が、大破?」

『おまえが一時離脱し地上に降りていた時の話だ。俺たちは地上部隊の支援なしでの基地突入と制圧を敢行する、俺たちに与えられた時間はない』

『少尉』

 ソノイのシルフィード背後に、ユーヤーのトマホークが寄ってきて赤外線通信を試みてくる。

『少尉気を付けて、大佐はなにか企んでいる』

「企み? なにを?」

『わたしもずっとこのハゲと一緒に生きてきたけどサ』

 ユーヤーの通信に紅炎の声が割り込む。

『あのハゲ、いっつも大切なことを言わないの。そのくせ何か行動が一貫しててね』

「隠し事ってやつね」

 紅炎が、グレイブから受け取った図面データを解凍しながら軽口を言う。

『大事なことは何も言わないけど、ホントどうでもいいことばっかりはよく口にするからまいっちゃ……ううん?』

「どうしたの?」

『……ん、んーん。なんでもない』

「なに、あなたも何か隠してるの?」

『い、いやーそういうのではないんだけれど、ハハハ……」

 ソノイの質問に、言葉を濁しながら紅炎は三次元光学投影ディスプレイで頭をかいた。

 コーションライトに赤い警告が灯り、何かがアンロック状態になっているとの表示が示される。

 しかし正面に設置される緑色の総合ディスプレイの中には、シルフィードの機体状況の中でも特に目立つ異常は示されていない。

「なにかあったの?」

『ちょっと待ってて』

『きびきび歩け!』

 前を行くグレイブのトマホークが地下道を示した。

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