第32話 たどり着いた場所

『わ、また落ちた……』

 慣れていないシルフィード同士の同期に手間取りながら、紅炎は指先のジャックを介してなんとか倒れたシルフィードのデータサルベージを試みていた。

『だめ! 熱い! HDが溶けかけてるしムリだよ!』

「なんとかするのがあなたの仕事でしょ!」

『生きて帰ったらタダじゃすまさないからね!』

 なんとかシルフィードへのアクセスに成功したらしい紅炎から、指先のジャック経由で様々なデータが転送されてくる。

 なんだかんだいいながらも、紅炎が一生懸命なのが分かった。

『あと、もう少し……』

「紅炎急いで!」

『ファンもいかれてるし、触っただけでこっちが溶けちゃいそうだヨあちちっ』

 紅炎の転送してくる膨大なログが、シルフィードのコンピュータをフル稼働させる。

『あちちちっ、誰かにジャマされてるっ!』

「誰?」

『まだ中にいる!』

 立ち上る白い湯気を沸き立てながら、倒れたシルフィードに光りが復活した。

「!?」

『あッ!』

 突然復活したシルフィードにソノイは驚き、はずみで指先のジャックが外れる。青い炎を翼にまとわせ、シルフィードはふたたび立ち上がってソノイの前に立ちふさがる。

 目はまん丸に見開きソノイを見下し、背後で燃焼ガスに火が着いて大爆発を起こした。

「クッ、通信が途切れた! 紅炎!? 紅炎!」

 有線接続していた指先ジャックがシルフィードから外れ、紅炎との同期が途切れる。今ソノイのシルフィードを操作しているのは紅炎のバックアップだ。

 肉が焼け、細かい黒い微粒子が周囲を取り巻いている。

 溶けた肉がずるりと焼け落ちる。ソノイは目の前で復活した、もう一人のシルフィードを見あげた。

「そんな、まさか!」

 人型のシルフィードは、全身を青い炎で包まれながら力なく一歩前へと踏み出した。

 ソノイは引く。

 なおもシルフィードが追いかける。その足は、左右へ揺れていた。

 背後で爆発が起きる。湯気は大きな渦となって空を舞い、シルフィードの間接という間接から火の柱が幾重にも伸びて大地を燃やす。

 シルフィードが、ソノイのシルフィードに迫ってその手を掴んだ。

「!!」

 炎、シルフィードの目がすぐ前に迫る。熱気がコクピットに通じる。

「く、くえ……」

 ソノイは祈るようにバディの名前を唱えたが、すると目の前のシルフィードはゆっくりとソノイの手を引き自身の胸に指先を差し込んだ。

「……!」

 突然、シルフィード同士のデータ通信量を示すゲインが山のように膨らみだし、指先からあらゆるデータがソノイのシルフィードに向かって流れ出した。

『……ぶっはァーッあちい! しぬ! しぬ!!』

「紅炎!?」

『冷房は! ファン! あちい! しぬ! ……生きた!』

 ソノイのシルフィードに搭載された機器冷却用エアコントロールが猛烈な勢いで回りだし、機内温度が急速に冷えていく。

 紅炎は生き返った。

『生きた!!』

「何があったの?」

 ソノイは目の前で自分の手を掴むシルフィードを見た。

 シルフィードはすでに全身の外板が溶けはじめており、電装が破壊され、一部フレームも剥き出しになっていた。

 破裂した燃料タンクの炎が別の引火元にも火を延ばし、白煙が黒煙に変わっていく。

 シルフィードはゆっくりとソノイの手を抜くと、崩れるようにしてその場で倒れた。

 読み込み不能な、大量の断片的なデータだけを残して。

「これは、いったいなんなの?」

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