第30話 裏切り

 ソノイたちに迫る肉塊を横から切りつけたシルフィードは、ファイターモードになりながらなおも翼を開いて空へ向かった。

 激痛に声を出す肉塊たちが口を開き、涙を流しながらふたたび渦を作る。わき上がる波、カート、トマホークの群、切断された肉塊は最合流すると、いちだんと大きな波を作って上空のシルフィードに迫った。

「な、なにあれ!?」

『シルフィード! シルフィードぉぉぉナンデっ!?』

 空飛ぶシルフィードに肉塊の波が迫る。シルフィードは可変翼を開ききりエンジンを絞って、先端が開いた肉の波を避けて再び反転、降下の姿勢をとり再変形する。

 その姿はソノイたちのシルフィードとは違う、完全な人型だった。

『ゲッ、二段変形!』

 手足を伸ばしたシルフィードはなお翼を広げ、ブレードを構えて肉塊の触手を切り落とす。

『逃げてソノイちゃんあいつヤバい!』

「なっなんで?」

『あいつ、一番最初に作られたやつだよ!』

 空飛ぶ白い翼のシルフィードはブレードを展開し、可憐に肉塊たちの攻勢を避けては支柱のカートたちを切り削いでいく。

 切られた肉がぼろぼろこぼれ落ち、空が一瞬にして赤く染まった。その中を、人型のシルフィードが自在に飛びすぎていく。

 真っ赤な瞳がソノイを睨む。

「み、見つかった?」

『逃げて!』

 ソノイのシルフィードはブースターとサブエンジンを唸らせ、姿勢を低くし逃げる体勢をとる。

 むろん、まだメインエンジンは回りきっていない。

「メインエンジンの強制再起動! 今すぐ!」

『オーケィ!』

 紅炎の声と同時に背面のメインエンジンがゆっくり回りだし、イグニッションスイッチが入って油圧が回り出す。

『うおおおお間に合わないっ!』

「頑張って紅炎!」

『アンタもなんかやれーっ!』

 ソノイは周辺状況をカメラに納めると、冷静にデータディスクに画像を保存した。

「がんばれっ!」

『ウルサイ!』

「何かできるの!?」

『じゃあ祈ってて!』


 肉のかけらが雨となって空から降り注ぐ中、シルフィードはなおもエンジン再始動を繰り返しながらブーストダッシュで逃げようとする。

 後ろには、翼を広げたシルフィード。また前にも、肉のカバーで全身を覆ったカート、トマホークの残骸が行く手を遮り立ち上がる。

 ここまで来てソノイは察した。カートとは、自分たちの仲間のトマホークに肉塊が絡みついて寄生した存在なのだ。

 対する後ろから迫るシルフィードにも肉が絡みついている。間接部の、装甲と装甲の間にしがみついている黒い影は寄生肉だ。

 シルフィードの猛烈なスピードに、肉片は半分振り落とされかけている。

 その背景に白い煙。

 ソノイはさらにスピードを上げた。

「紅炎まだ!?」

『前みてっ! 前!』

「! く、くのォー!!!!」

 立ちはだかるカートたちを避けきり、すぐに追っ手のシルフィードがカートたちを飛びすぎる。ブレードを構えマルチガンをとりだした追っ手のシルフィード、カートたちは、衝撃波に体を刻まれて吹き飛んだ。


 逃げるソノイのシルフィード、追いかけるシルフィード、翼に手が掛かりシルフィードの手ソノイたちのすぐ後ろに迫る。

 ソノイたちのエンジンにふたたび火が着いた。ギアがかむ独特の音が鳴り、油圧計と温度計が上昇、回転数が復活する。

「間に合え! 間に合え間に合え間に合え!」

 シルフィードは脚を地面から離し、低空状態からファイターモードに移行した。

 脚が地面から離れて、飛行モードに切り替わる。

『スティック引けーッ!』

 エンジンを開くソノイのシルフィードの肩に、後のシルフィードが追いつき指がかする。

 その瞬間、開ききったシルフィードの翼を土が削った。

 狭くなった崖の両面が追いつくシルフィードを横から挟み込んだのだ。

 追いつきかけたシルフィードは、翼を削ってその場で横転。巻き付いていた黒い肉片がシルフィードの機体から離れ、炎に包まれ悲鳴を上げる。

 重かった操縦桿にパワーが戻り、ソノイはゴーグルを降ろしてスロットルを押しやる。

 逃げ切った。勝ったのだ。

「緊急離脱! 最大出力で!」

『アイサー!』

 ソノイは我を忘れて操縦桿を引いた。翼は閉じたまま。

 上空に、後続のユーヤーたちがやっと追いつく。

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